九十年代には、著書では、方言を考察する『あいさつ言葉の世界』(藤原与一1992武蔵野書院)、地域差の考察である『全国あいさつ資料』(江端義夫1996広島大学)などがあった。また、論文集として代表的なものに『謝罪の言葉』(『日本語学』特集1993)、『感謝の言葉』(『日本語学』特集1994)、『あいさつことばとコミュニケーション』(『国文学』特集1999学燈社)がある。『謝罪の言葉』と『感謝の言葉』を後述するので、ここでは、主に『あいさつことばとコミュニケーション』について紹介する。
1.『あいさつことばとコミュニケーション』(『国文学』特集1999学燈社)
ここには、主に以下の論文が掲載されているが、詳しい紹介は本論の参考になったものに絞りたい。
(1)「あいさつとコミュニケーションの文化」(小泉保)
小泉は他国のあいさつ言葉と比べながら、まず日本語の時間的挨拶を論じた。それから「ちょっと、そこまで」を例として、相互認知があいさつの主な働きであると述べた。また「いただきます」を例として、日本語のあいさつには開始と終了の合図を表すものが多いと述べた。最後に日本語の別れのあいさつについて論じた。
(2)「コミュニケーションにおけるあいさつの役割」(橋元良明)
橋元はあいさつを、それが行われる状況に従って分類し、主な役割·機能について概観してきた。人の場合、動物に見られる攻撃性の宥和という原初的機能からだいぶ違った方向に展開してきたことが見て取れるが、あいさつが基本的に友好的人間関係や社会的秩序の安定を維持するために発展してきた行動様式であることに変わりないと述べた。
(3)「あいさつ行動と非言語的コミュニケーション」(大坊郁夫)
大坊はあいさつ行動をめぐって、あいさつのパターンと効用、あいさつの基本構造について述べ、あいさつの関係の反映に着目し、親密さと男女差によって違うと指摘した。親しい人同士の間では、あいさつ行動は省略したスタイル、その人たちだけに通じる暗号のようなものになることもある。通常は、握手やお辞儀などのようにかなりの程度ステレオタイプな行動パターンがあり、意味の一般性がある。しかし、対人関係の親密さによってその表現スタイルは大きく異なることがある。その特徴は、象徴化、省略と言えよう。また、男女間では非言語的なコミュニケーション行動自体にいくつかの違いもあり、それがお互いの理解の仕方に影響を与えると言えよう。
(4)「日本社会の出会い·別れのあいさつ行動」(氏家洋子)
氏家は「ウチ」と「ソト」の文化意識に基づき、日本社会の出会い·別れのあいさつ行動について論じた。日本語社会の住人は前時代からの言語行動の枠組みや規制の中に生きている。ウチではあいさつ言葉を拡張させ、入念なあいさつ行動で一体感の惹起や強化に努める。「他者のウチ」圏内に出入りする、初対面の人に会う、という時には特定の形式や儀礼的な言葉を使う。ウチ·ソト区別の意識により集団の一員として自己を、また相手をみなす。
(5)「交感的コミュニケーションとしてのあいさつ行動」(宇佐美まゆみ)宇佐美は「あいさつ行動」が交感的コミュニケーション」の代表的なものとして、「言語社会心理学」的観点から、「あいさつ行動」というものを、単なる話者の表現選択の問題としてではなく、相手の反応も含めたディスコース·レベルにおいて、その「相互作用」を動的に見ることが重要になってくると述べ、あいさつ行動を出会いや別れの際に交わす単なる言葉や表現(決まり文句)の使用行動としてだけではなく、広く「人間の相互作用」という「ディスコース」のおける機能面からと捉えた。
(6)「キャンパスのあいさつことば」(都染直也)
都染はキャンパスでの「あいさつことば」にはどのような現象が見られるかを目的にして、「オハヨー」について大学生にアンケートを通して、従来見られなかった新しい用法と、その使用実態·意識を中心に考察をした。実際の時間とは全く関係なく、夜でも使う。しかし、さすがに日が落ちてから使う時は、いつどんな時でも「お早う」と言ってしまっている自分がおかしいと思いつつ、「今晩は」と言うのもなんだか相手との間に距離を感じてしまうので、つい「お早う」と言って済ませてしまう。
(7)「日本語学習者と『あいさつ』-日本語教育の場で」(中道眞木男·石田恵理子)
中道·石田はまず「あいさつ」の必要性及びその原因について述べた。それからあいさつ行動を例として、ある種の行動及びそこで生成される談話について学習すべき内容を以下の三つの次元(①社会文化的知識としての学習内容、②談話行動に関する学習内容、③言語形式に関する学習内容)に整理した。あいさつ行動に限らず、あらゆる学習内容は、これらの次元、つまり社会文化能力、談話運用能力、言語操作能力のすべてにわたって学習されなければならない。最後に、外国人の行動やことばに接したとき、単に自分と違うことに驚き拒絶するのでなく、その真意を推し量り、どこまで許容できるかを見極め、そして、できれば好意的に対処してほしいと主張した。
2.中国側の研究
中国側における研究は二千年代から多くなってきた。主に中日対照研究の角度から、中日両国あいさつ言葉、あいさつ行動、反映するそれぞれ社会の文化や人の意識などを論じた論文が多い。中日対照研究は第五節で詳しく説明するが、ここでは、あいさつ言葉の特徴についての代表研究を紹介したい。
《日語寒暄語的相关特征》(李冬松《日本学论坛》2003)では、日本語のあいさつ言葉の特徴について論じ、定型性、待遇性、調和性という結論だった。
そのほかに、以下の特徴も見られる。
①真実を伝えるべき言葉の役よりも、むしろ仲間意識を固めるのを第一義として、「相槌」のようなものも多い。
②宗教色が薄いか、あるいは全くないことである。
③敬意を示すには、長いほうが短いものよりいいというのが普通である。
④親しみや敬意を示すものとは言っても、社会的な規範であり、ある押し付けでもある。あいさつの受け手に対する押し付けるという性質があるため、命令形表現が多い。
⑤あいさつの一方通行、返答がないあいさつことばもたくさんある。
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