東京が世界の未来を拓く

クールジャパン（カッコいい日本）。世界が日本の大衆文化に注ぐまなざしです。発信地東京のさらなる力りき量りょうが試ためされます。東京が世界を拓ひらくのです。

昨年十月、週刊少年ジャンプを発行する集英社がトルコのイスタンブール現代美術館で漫画展を開き、反はん響きょうを呼びました。人気作品の原画を展示したり作画工程を上映したりしました。小学生たちが先生に連れられて社会見学に訪れたというのですから驚きます。

ジャポニスムの再さい来らい

周辺のイスラム諸国の潜せん在ざい需要は高いとみて、集英社は手始めに親しん日にち国家トルコでの漫画の出版計画を立てているそうです。米国ではすでに八年前から英えい訳やく版ばんの月げっ刊かん少年ジャンプを出していて三十万部近くが売れています。

漫画やアニメ、ゲーム、映画や音楽、ファッションまで日本の大衆文化が世界を魅み了りょうし、クールジャパンと呼ばれています。バブルが崩ほう壊かいして日本人がふさぎ込んでいるうちに芽め生ばえた現象です。

今や「マンガ」や「オタク」は世界共通語です。東京·秋葉原を中心とした文化はインターネットの普及と相あいまって瞬またたく間まに地球を駆かけ巡めぐり、同どう好こうの国際コミュニティーを誕生させました。

十九世紀半ば、陶とう磁じ器きの包み紙に使われてフランスに渡った葛かつ飾しか北ほく斎さいの漫画が印象派の浮うき世よ絵えブームに火をつけ、ジャポニスムが欧米諸国を席せっ巻けんしたことはよく知られています。クールジャパン現象をその再来とみる向きは少なくありません。

水木しげる氏の漫画『のんのんばあとオレ』や滝たき田た洋よう二じ郎ろう監督の映画『おくりびと』が国際的に高く評価されたのは近年の象徴的な出来事でしょう。

クールジャパンの呼び名は米国人ジャーナリストのダグラス·マッグレイ氏が「日本のグロス·ナショナル·クール」という論文を二〇〇二年に発表してから定着したようです。

支え合いの心を紡つむぐ

経済指標の国民総生産（GNP）になぞらえ、ポップカルチャーの力を示す指標としていわば国民総カッコよさ（GNC）を提唱したのです。

そんな日本の大衆文化を学ぼうと来日する外国人留学生がたくさんいます。

東京都内の宝たから塚づか大大学院でアニメを専攻する中国人の馬穎寅（マーエイイン）さん（24）はクリエーターの先生になるのが目標です。文化産業を後あと押おしする中国では大学の多くにアニメのコースがあり、馬さんも学士の資格は上海で取得しました。

でも「日本人のこまやかな性格や生活習慣を知らないと、実力が身に付きません」と断言するのです。登場人物にどんな個性を与えるか。物語をどんな具合に運ぶか。いくら表現技術が巧たくみでも、そこに魂たましいを吹き込む力を養やしなうには日本留学は不可欠だといいます。

同じように考える留学生は多いそうで、まるで日本人そのものが教科書のような存在なのです。

日本の漫画やアニメがなぜ政治や宗教、民族、慣習などが違う海外で脚きゃっ光こうを浴あびるのでしょうか。

「日本的想像力の未来－クール·ジャパノロジーの可能性－」（NHKブックス）によれば、美術作家の村上隆氏は「友情だったり愛情だったりを一人ひとりが共有できる」ことが作品のテーマとして貫かれていると指摘しています。

貧しさを背景に生み出された文化ゆえの、広く大衆の心をとらえようと絞り出された知恵だというのです。

人気ゲーム「太鼓の達人」などを手掛けた宝塚大の川かわ村むら順じゅん一いち教授は「日本は敵を倒して生き抜くという一神教の国ではなく、いわば八やお百よろ万ずの神かみの国です。日本人の発想の根底には和を尊とうとぶ思いが流れているようです」と見ています。

例えば、米軍は戦争ゲームをつくりネット上で配はい布ふして募ぼ兵へいに利用しています。日本では反戦思想を基調とした戦争ゲームが好評を博しています。そんなところに一いっ端ぱしが表れているというのです。

自然とどう共生し、異質とどう共存するか。グローバル化の荒あら波なみは厳しい問いを世界に突きつけています。それに対し、人びとの支え合いの精神で立ち向かおうとする営みが日本の大衆文化の本質ではないかと思うのです。

東京人が秘める底そこ力ぢから

クールジャパン現象はピークを過ぎたともいわれます。でも忘れてならないのは、その原動力は東京でごく普通に暮らす人たちだったという事実です。東京人の日常にこそ世界をリードする力が秘ひめられているのです。

この春にはそんな東京の新しい顔を選ぶビッグイベントの都知事選が待っています。東京人の支え合いの心にどう磨きをかけて世界に発信するか。東京をもっとクールにする知恵を競きそい合ってはどうでしょうか。

（2011年1月3日『東京新聞』社説）

単語

注釈

① 葛かつ飾しか北ほく斎さい

葛饰北斋（1760年─1849年），日本江户时代的浮世绘画家，其代表作有《富岳三十六景》《北斋漫画》，是世界著名的画家。他的绘画风格对后来的欧洲画坛影响很大，据说一些欧洲著名的画家都临摹过他的作品。他还是入选“千禧年影响世界的一百位名人”中唯一的一位日本人。

② 水木しげる

水木茂，日本漫画家。本名为武良茂，1922年3月8日生于鸟取县境港市。现居住在东京都调布市。目前担任世界妖怪协会会长、日本民俗学会会员、民族艺术学会评议委员。鬼太郎的作者，绰号妖怪博士。除拿手的妖怪外，还有以战争、科幻、幽默等为题材的作品。

③ 『のんのんばあとオレ』《鬼婆婆与孩子王》

著名漫画家水木茂以自传形式写的散文，同时也指以该散文为蓝本绘制的漫画，以及由NHK拍摄的电视剧。

④ 滝たき田た洋よう二じ郎ろう

日本电影导演，1955年12月4日出生于富山县高冈市，毕业于富山县立商业高中。1974年作为副导演进入电影公司，1985年泷田导演的《不要滑稽杂志！》得到了很高的评价。2001年，泷田执导的奇幻时代剧《阴阳师》成为当年的票房黑马。2004年作品《壬生义士传》获日本电影金像奖最优秀作品奖，2008年作品《入殓师》在加拿大蒙特利尔电影节上摘得最高大奖。2009年该片获日本电影金像奖最佳作品奖和最佳导演奖，并在同年获得了第81届奥斯卡最佳外语片奖。泷田还获得了富山县首次颁发的“县民荣誉奖”。

⑤ 『おくりびと』

《入殓师》，泷田洋二郎执导的第43部电影，台湾译名为《送行者—礼仪师的乐章》、香港译名为《礼仪师之奏鸣曲》，该片在加拿大蒙特利尔电影节上摘得最高大奖。

⑥ ダグラス·マッグレイ

美国记者，道格拉斯·麦克格雷。

⑦ 「日本のグロス·ナショナル·クール」

2002年道格拉斯·麦克格雷在美国《外交事务》杂志上发表的一篇文章，英文是“JAPAN'S GROSS NATIONAL COOL”。文章指出日本在所谓经济萎靡不振的“失落的十年”里，反而发展建立起文化软实力这一现象，称其在国际上的影响日增。

⑧ GNC

“Gross National Cool”的缩写。“GNC”是抽象的概念，指一个国家在世界流行的程度，而创造流行形象最终是会转化成为实质的金钱。

思考問題

1. 「クールジャパン現象」とは、どういう現象なのか。

2. 筆者は、日本の大衆文化の本質をどう理解しているか。

3. 「東京人の日常にこそ世界をリードする力が秘められているのです」と筆者は言っているが、その根拠は何か。