「医学部新設による急激な医師の養成増は、かえって医療崩壊を促進し、後世に禍根を残しかねない」――。
全国国公私立の医学部·医科大学の病院長や医学部長で組織する全国医学部長病院長会議は1月20日、医学部(医科大学)新設による医師増員策に対し、政府に慎重な対応を求める声明文をまとめ、公表する。
これは深刻な医師不足を解消するため、昨年12月下旬に文部科学省が開催した大学医学部の新設などの是非を検討する専門家会議「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」の初会合に合わせて行なうものである。
現在の民主党政権は、マニフェストに基づき、医師数の増加に取り組んでおり、医学部の新設を俎上に載せている。これを受けて、現在、表面化している大学だけでも、国際医療福祉大学(栃木県大田原市)、北海道医療大学(北海道当別町)、聖隷クリストファー大学(静岡県浜松市)の3私大のほか、公立では、はこだて未来大学(北海道函館市)で、医学部の新設構想が進んでいる。
同会議は、こうした動きに対し、昨年2月にも政府に反対の要望書を提出しており、再度の“意見表明”を行うのである(昨年は全国自治体病院協議会、国立大学医学部長会議、日本医師会も同様の意見書を提出している)。
救急車のたらい回しや、医療現場での医師の疲弊ぶりが表面化し、医師不足による「医療崩壊」が社会問題化したのは周知の通りだ。本来、医師の増員策は、医療関係者にとっても悲願であり、歓迎すべき問題のはずである。
にもかかわらず、なぜ大学の病院長や医学部関係者らは、ここまで強く反対するのだろうか。
問題にしているのは増員の方法だ。関係者らは「医師数を増やすこと自体は良い。ただ、その方法が医学部の新設となると弊害が多い」と口をそろえる。
その理由は三つ。
一つは、医師数の不足は解消が見えており、さらに医師を増やすにも、既存大学の定員増で十分に対応できるというものだ。
たとえば、昨年9月に厚生労働省が発表した「必要医師数実態調査」では、十分な医療を確保するためには、約2万4000人の医師が必要としており、現在の医師数と必要な医師数の合計は約19万1000人で、現在の医師数の1.14倍としている。
全国80大学の2010年度の医学部入学定員は8846人(11年度見込みは8923人)であり、2007年度に比べて1221人、医学部12~13校に相当する数が増員されている。現状で毎年約4000人(勤務医は約3000人)ずつ医師数が増加しており、今回の厚労省の調査結果である約2万4000人の不足分も、単純計算で6~8年後には解消できることになる。
「既存大学で、各校が定員をさらに2~5人程度増員すれば、日本全体で150~330人の増員、医学部2~4校分の医師養成数の増加が可能になる」(関係者)。
二つ目は、医学部を新設する際、教員確保のため、医療現場からの中堅勤務医の引き抜きが生じ、地域病院の医師不足を加速させてしまうという懸念だ。
医学部運営に必要とされる教員医師は1大学あたり約648人である。これに対し、厚労省のデータに基づいた試算では、人口100万人規模の県レベルでの病院勤務医は約960人。うち、教員候補となりうる30~40代の病院勤務医は約560人にすぎない。人口100万人規模の県レベルでの3分の2以上、30~40代の病院勤務医のすべてを投入しても足りない規模の人数を医療現場から引き抜けば、弊害が生じると懸念されているのだ。
三つ目は、一旦、医学部を新設してしまうと、既存大学で定員を増加する方法に比べ、需給状況に応じて医師養成数を減らす調整が難しくなり、現在の歯科医師の世界で起こっているような「医師の過剰」を生み出す恐れがあるためだ。
しかも、1960年代に比べ、医学部の定員は倍増し、少子化によって大学進学年齢人口は半分になっている。「医学部新設による急激な定員増は、医学生の学力低下を招き、医療の質の低下が危惧される」(関係者)という懸念もある。
むろん、こうした意見については「既得権益を守ろうとしているだけではないか」という声もある。
だが、全国医学部長病院長会議の森山寛副会長は「医師1人の養成には、約1億円という莫大な費用がかかり、血税も投入される。医師を増やすために医学部を新設するという政策はわかりやすいが、医師·医学生の質の維持や教育の点からは、既に行われている既存の医学部での増員が適切であり、新設については極めて慎重に考えるべきだ。地域や診療科による偏在の解消、女性医師の活用、医師の事務業務の軽減、勤務医の定年延長など、解決すべき課題はたくさんある」と指摘する。
医学部新設は、1979年の琉球大学が最後で、その後は認められていない。新設されれば、約30年ぶりである。文科省では、年内までに一定の方向性を出す予定だが、この問題は地方自治体や新規参入する大学の意欲と関心が高いだけに、一筋縄では行きそうにない。(編集部 山本猛嗣)
2011年1月7日『週刊ダイヤモンド』
単 語
注 釈
①聖隷クリストファー大学
日本的私立大学,圣隶克里斯多夫大学。2004年与第三军医大学建立了校际交流关系。
②はこだて未来大学
公立函馆未来大学,2000年4月正式开始招生。
③日本医師会
以全日本的医生为会员的公益法人,除“日本医师会”外,还有“日本齿科医师会”、“日本药剂师会”,简称“三师会”。
思考問題
1.「医師を増やすな」と大学病院長らが声明文を出す理由は何か。
2.「深刻な医師不足」を解決する方法について考えなさい。
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