第四章 中日同形語と語構成
1. はじめに
中国では日本語学習者が増える一方である。しかし、中国語母語話者の日本語学習者にとって、中日同形語の意味用法は必ずしも習得しやすいとは限らない。中には、非常に把握しにくいものも少なくない。中日同形語に関する研究も盛んになされているが、語構成からの比較研究が不足しているのが現状である。少しでも中国の日本語学習者の能率的な習得に役立ち、日本語教育に携わっている先生方の参考になるように、本研究を始めた次第である。
2. 先行研究
2.1 語構成の用語
一般に「語」は構成要素から大きく単純語と合成語に分けられる。「単純語」と「合成語」の下位分類の時、用語が分かれている。日本語の漢語特に二字漢語を語構成の角度から分析する時、多くの研究者(1)が「語基」(2)を使用しているが、「形態素」、「語素」、「語根」、「前部分」と「後部分」、「前字」と「後字」などを使う研究者(3)もいる。しかし、「語基」は「インド-ヨーロッパ語などで、語から屈折語尾や派生語をつくる接辞などを取り除いた残りの基本的な部分。意味·形式からみて、それ以上分析できない究極の要素となるもの。」(4)を意味するので、屈折語尾がない漢字語、音訳外来語(例えば、「基督」)、連綿詞(5)などの語構成分析に合わないと思われる。「形態素」、「語素」、「語根」は「語基」と同じく、西洋の言語学からの訳語で、一つ一つの漢字で表記し、屈折語尾のない漢字語に必ずしも当てはまるとは限らない。そして「前部分」と「後部分」はあいまいで、「前字」と「後字」は三字以上の漢字語を分析する時、限界がある。
2.2 合成語の分類
語構成を具体的に分析し、下位分類する際、単純語は分解不可能なので、問題にならないが、合成語は各構成要素間の関係が複雑すぎて、分類が分かれている。次に中日両国での分類を見ていく。
2.2.1 中国での分類
合成語の下位分類で、特に注目すべきなのは卢英顺(2007)である。卢英顺(2007)は合成語の構成方法を“复合法”、“派生法”、“类派生法”の三種類に分けた。普通の「複合語」と「派生語」以外に、“类派生词”を設けた。そして、“初、非、可、本、超、次、半、反、泛、伪”を“类前缀”に、“者、家、员、手、师、族、界、热、度”を“类后缀”に分類した。“类派生词”の“类”は日本語の「准」に当たる。“类派生词”の言い方は合理的な一面を持っていると思われるが、本稿では採用しないが、これからの研究課題にしたい。
複合語の下位分類について、葛本仪(2001)は“复合词”を大きく“联合式”、“偏正式”、“补充式”、“动宾式”、“主谓式”、“重叠式”の六類に分類しているのに対して、卢英顺(2007)は“联合式”“附加式”“补充式”“陈述式”“支配式”の五類に分類している。両者を比較すれば、次のことが分かる。
(1)葛本仪(2001)は卢英顺(2007)より“重叠式”が多い。
(2)同じく“联合式”“补充式”を使っている。他の用語に違いがあっても、“偏正式”=“附加式”、“动宾式”=“支配式”、“主谓式”=“陈述式”のように、基本的に対応している。
2.2.2 日本での分類
斎賀秀夫(1997)は山田孝雄と松下大三郎の分類法を参照したうえで、語結合の意味的関係を次の6種類に分類した。
(1)並立関係 (2)主述関係 (3)補足関係
(4)補助関係 (5)修飾関係 (6)客体関係
そして、「ここの実例に当って検討すればわかるように、各結合要素間の意味的関係は極めて複雑で、それを完全に分類し尽くすのは不可能に近い。」(6)と指摘した。
他の研究者の漢語の語構成についての論文も数多くあるが、中国語の漢語と日本語の漢語特に中日同形語を、語構成の角度から考察したものはまだ確認できていない。
3. 筆者の用語と語構成の分類
3.1 「根字」と「非根字」
吕叔湘(1962)が“汉语词汇的基本单位还是一个一个的单字。应该把现代汉语中最有活力的两千来个字(估计不超过此数)给学生讲清楚。不能把汉字只看成符号,像对待外国语的字母那样。”(7)と指摘したように、西洋言語学の用語や理論で、屈折·活用を持たぬ言語である中国語の語構成を分析するのに限界があることに気付いた学者が多い。そして、近年、中国では、“以字为汉语基本结构单位的语言研究思路(字を中国語基本構成単位とする言語研究の考え方)”である“字本位”(8)のブームが巻き起こった。
そこで、筆者は「語根」、「前字」、「後字」、「漢字」、「音字」、「字本位」などを総合して、漢字語の基本構成単位を「根字」と「非根字」に分けてみた。「根字」、「非根字」について、次のように定義する。
根字:単独で「一字漢字語」として使われたり、接字と結合して派生語を構成したり、「根字」と結合して「複合漢字語」を構成したりして、語の根幹的な意味形成に寄与する漢字。「根字」は「R」(9)で表すことにする。
名詞的根字(N) 花 球 手 案
動詞的根字(V) 読 修 増 求
形容詞的根字(A) 大 多 新 重
副詞的根字(M) 最 極 再 特
中国語の代名詞 我 他
数詞 一 十 百
非根字:単独で使えず、「一字漢字語」や「複合漢字語」にくっついて、補助的な働きを果たしたり、他の「非根字」と結合し、意味理解の時、分解不可能な漢字語を構成したりする漢字。
「非根字」は「U」で表し、さらに次のように下位分類できる。
①接字
接頭字(P):老 第 初
接尾字(S):子 化 性
②音字(10)
音訳外来語で音を表すだけで、二つ以上で、あるまとまった意味を表し、一つの分解できない漢字語を構成する漢字。
③連綿字
単独で意味をなさないが、連綿詞を構成する漢字。
④日本語の当て字(11)
怪我 我楽多
⑤量詞(助数詞) 数詞の後にくっつく場合に限る。
「一具」の「具」 「一周」の「周」
「三冊」の「冊」 「五本」の「本」
3.2 中国語の特殊な「根字」と「非根字」12
中国語と日本語の品詞分類は大きく異なる。次の漢字が助詞、助動詞、介詞であるとき、日本語ほど造語力が強くないので、構成できる合成語は限られている。
助詞(非根字):的 着 了 過 見 得
助動詞(根字):能 会 可 要
介詞(根字):自 従 在 被 向
したがって、日本語では合成語であっても、中国語では合成語ではなく、「連語」(13)であるものが少なくない。その場合、語構成というより、「句構成」の範疇に属すると思われる。
3.3 語構成の分類
語は全部単純語と合成語に分類できる。
3.3.1 単純語
(1)Rが単独で構成した一字漢字語。
(2)二つのUから構成した漢字語
例えば、介詞としての「根拠」「依拠」「通過」、接続詞としての
」、音訳語の 、連綿詞の「芙蓉」「牡丹」などが、単純
語に属する。
3.3.2 合成語
合成語のパターンは文字数が増加するにつれ、複雑になるので、ここで二字合成語を中心に分析を進めていく。三字以上の合成漢字語(14)に関する詳しい分析は別の機会に譲る。
(1)補助型の派生語
P(U)+R 第一
R+S(U) 椅子 突然
(2)複合語
二字複合語:R+R 道路 読書 美観 壮大
同じRを繰り返す「人々」「年々」「個々」のような疊語も複合語に属する。
本稿ではRとRの結合関係により二字複合語を次の六種類に下位分類する。
①連合型(15)
類義であったり対義だったりするRが結びついて、複合語を構成する。「N+N」「V+V」「A+A」の三種類がある。
②修飾型
前のRが後のRを修飾して、複合語を構成する。「N+N」「V+N」「A+N」「A+V」の4種類がある。
③主述型 N+V
前のRと後のRが主語と述語の関係を成し、複合語を構成する。
④補足型 V+A
後のRが前のRに対し補足的な説明を成し、複合語を構成する。
⑤動賓型(16) V+N
後の根字が前の根字の目的語になり、複合語を構成する。
⑥主語後置型(17) N+V
後の根字と前の根字が主述関係を成し、複合語を構成する。
4. 中日同形語の語構成の分類と比較
語構成を検討するので、「一字語」は対象にならず、本稿は「二字中日同形語」を中心に展開していく。
語構成の角度から、中日同形語を大きく、「同じ構成の漢字語」、「違う構成の漢字語」、「一方あるいは双方が二種類以上の構成を持っている漢字語」、「日本語独特な語構成の漢字語」に分類できる。
4.1 同じ構成の中日同形語
同じ構成の中日同形語はさらに次の二種類に分けられる。
①意味が同じであったり似たりする漢字語
②意味や用法が違っている漢字語
4.1.1 同じ構成で意味が同じであったり似たりする漢字語
(1)補助型の派生語
P+R:第一
N+S:様子 椅子 扇子 帽子 調子 種子 冊子 餃子面子
接尾辞(S)の「子」は日本語での読み方が次の三種類に分けられる。
①「す」
②「し」
③中国語の発音のまま
(2)複合語
RとRの結合関係を「連合型」「修飾型」「主述型」「補足型」「動賓型」「主語後置型」の6種類に下位分類できる。
①連合型
N+N:階級 子孫 夫妻 人々 人魚
V+V:援助 教育 進歩 彫刻
A+A:盛大 巨大 多少 貧富
「上半身が人間(多くは女人)で、下半身が魚の形をした想像上の動物」(18)である「人魚」は特別な連合型である。
②修飾型
N+N:英語 液体 海軍 税金
V+N:作品 食料 住宅 燃料
A+N:青年 勇気
A+V:軽視 重視
③主述型
「N+V」の主述型の同形語として「意向」「国立」「地震」「市営」などが挙げられる。「意向」はもともと「意が向う」意味で、今一つの名詞的熟語として、「心の向かう所。おもわく。(どうするかの)かんがえ。志向。」の意味を表す。「国立」「地震」「市営」はそれぞれ「国が設立する」「地が震える」「市が経営する」の主述構造である。
④補足型
「V+A」の補足型の同形語は「改善」「減少」「縮小」「増強」「増大」などが挙げられる。「善」「少」「小」「強」「大」などの形容詞的根字は前の動詞の結果を補足すると理解できる。(19)
⑤動賓型
「V+N」の動賓型の同形語は「成功」(20)「演劇」「営業」(21)「革命」「決意」「延期」「衛生」「同情」などが挙げられる。
⑥主語後置型
「V+N」の主語後置型の同形語は「変質」「変心」「変色」「変形」「出血」「降雨」「発病」などが挙げられる。例えば、「変質」は「性質または物質が変化する」を意味する場合、主語と述語の順番が明らかに逆になっている。「変質」は「変じた性質や物質」を意味する場合、語構成が変わり、「V+N」の修飾型になる。このような同形語は「存現文(21)」の短縮と考えられるが、「A+N」で構成する「高額」「敏感」のような漢字語にも「主語の後置」が確認できた。
4.1.2 同じ構成で意味や用法が違ったりする漢字語
この種類の中日同形語を結合関係により、「連合型」「修飾型」「修飾型」「主述型」「補足型」「故事成語」の六種類に下位分類できる。
①連合型
N+N:前後 始末
V+V:拝見 納入(23) 請求(24) 結束 合同 喘息 提示(25)
分別 散布 幇助 樹立 評判 奨励 進行 駆使麻痺
A+A:円滑 潔白 厳重
②修飾型
N+N:眼下 境内 婚期 外傷 球技 独女
V+N:愛人 用量 圧力 遺恨
A+N:暖流 熱湯 快報 好球 紅顔
A+V:悲観 遠投 痛恨
M+A:最近 最高 最低
③動賓型
V+N:開局 看病 献花 翻案 指名 投球 用心 懸念
用意 発話 立案 出品
④主述型
N+V:公認 水平
⑤補足型
V+V:放出 伝来 招来 造成 醸成 踏破 走破 読破
「V+V」構造の補足型は「V+A」構造の補足型と違い、二つのRはどちらもVであるが、前のVが語の中心で、後のVの「出」「来」などは日本の補助動詞に当たり、方向や動作の完了などの意味を付け加える補足的な役割を果たす。
⑥故事成語
「落花流水」、「行雲流水」、「朝三暮四」、「一刀両断」などが中国から日本に伝来した故事成語である。語構成が変わっていないが、日本人によりそれらの語義が敷衍されて、新しい意味用法が生まれたのである。
「落花流水」(26)は中国語では「晩春の景色を形容する」「惨敗して落ちこぼれている様子をたとえる」「話が大げさで実際の状況に合わないことをたとえる」の三つの意味を表すが、日本語では「(落花に情があれば、流水にもまた情があってこれを載せ去るの意から)男に女を思う情があれば、女にもまた男を慕う情の生ずること。相思相愛。」を意味している。
「一刀両断」はもともと「ひとたちでまっぷたつに斬る」意味であったが、中国語では「きっぱりと関係を断つ」を形容するのに使われるが、日本語では「断固たる処置をすること。決断の速やかなさま」を表す。
「行雲流水」は中国語では「空行く雲や流れる水のごとく、詩文などが自然そのものでのびのびしていること」を形容するのに使われるが、日本語では「空行く雲や流れる水のように、一事に執着せず、自然にまかせて行動すること。」を意味する。
「朝三暮四」は中国語で「移り気であることのたとえ。また考えや方針が定まらず、当てにならないこと。」の意味を表すが、日本語では「目前の違いにばかりこだわって、同じ結果となるのに気がつかないこと。」「口先でうまく人をだますこと。」「生計。くらし。」などの意味を表す。
4.2 違う構成の漢字語
4.2.1 中日両方とも複合語であるが、RとRの結合関係が違う
この類の同形語は数多くあるが、「隔壁」「激怒」「行楽」「失火」「商談」「進水」「打点」「望見」「放置」「養成」などの例を見てみたい。
隔壁
日本語:修飾型複合語。V+N。「間をへだてる壁。仕切り。」
中国語:動賓型複合語。V+N。「壁を隔てる隣」
激怒
日本語:修飾型複合語。A+V。「激しく怒ること。」
中国語:連合型複合語。V+V。「刺激して怒らせる。刺激を受けて怒る」
「激」はもともと「水の流れが石などにぶつかり、阻まれることによって、しぶきを飛ばすほど勢いをつける。はげしく勢いこませる。」意味であった。そこから「刺激を与えて感情を高ぶらせる」「刺激を受けて感情が高ぶる」意味に拡大したのである。「激動」も同じ意味で使われている。「激動」と「激怒」の「激」は日本語では全部「激しく」と理解されているので、全体の語義が異なっているわけである。
行楽
日本語:連合型複合語。V+V。「行って(旅をして)楽しむこと。」
中国語:動賓型複合語。V+N。「楽しいことを行う。」
失火(27)
日本語:修飾型複合語。N+N。
「過失から火事を出すこと。また、その火事。」
中国語:動賓型複合語。V+N。
「火をコントロールできなくなる。」「火事が起こった。」
商談
日本語:修飾型複合語。V+N。「商売や取引をまとめるための話合い。」
中国語:連合型複合語。V+V。「相談する」
進水
日本語:動賓型複合語(28)。V+N。
「新しく建造した艦船を造船台から滑らせて水上に浮かばせること。」
中国語:主語後置型複合語。V+N。
「船に水が漏れる。水道水が出る。水がパソコンなどにこぼれる。」
打点
日本語:修飾型複合語。V+N。
①野球で、打者が安打·犠打·四死球などによって自軍にもたらした得点。得点打。
②テニスなどで、ボールを打つ位置。「―の高いサーブ」
中国語:連合型複合語。V+V。
①準備する.手配する。支度する。
②つけ届けをする。賄賂を贈る。
放置
日本語:補足型複合語。V+V。「かまわずに、そのままにしておくこと。」
中国語:連合型複合語。V+V。「置く」
望見
日本語:連合型複合語。V+V。「遠くからのぞみ見ること。」
中国語:補足型複合語。V+V。「見ることが出来た。見えた。」
中国語では、“见”は感覚·知覚·嗅覚などの知覚動詞の結果補語として用いられるが、品詞分類はなされていない。
養成
日本語:連合型複合語。V+V。
「養育して成長させること。養い育てること。」
「体力を養成する」「教員を養成する」
中国語:補足型複合語。V+V。
「(いい習慣などを)身につける。」
“成”は完了の「あげる」を意味する。
4.2.2 中国語では派生語、日本語では複合語
「頭」「面」「上」「下」などが中国語では接尾字(S)である場合もあるが、日本語では「心頭」以外はほとんどRである。次の語例が挙げられる。
石頭 後頭 骨頭 舌頭 前頭 念頭 枕頭
念頭
日本語:修飾型複合語。N+N。「こころ。胸のうち。心頭。」
中国語:派生語。N+S。「考え。思い。意図。心づもり。」
日本語は「念のある場所」である「頭」か「心」に重きがあるが、中国語は「頭」が接尾字(S)で、「念」に重きがある。
骨頭
日本語:修飾型複合語。N+N。医学用語。
「大腿骨頭(だいたいこっとう)」のように、骨の上に向いている頭の部分。
中国語:派生語。N+S。
人や動物などの骨。骨の硬さから「人格、気骨」の意味が敷衍された。
「面」を含む中日同形語は非常に多いが、中国語で「面」が接尾字として使われるのは方向を表す漢字語に限る。次の語例が挙げられる。
外面 裏面 南面 前面
「上」は中国語で、接尾字として使われる場合、前の根字の場所の表面か周りを指す。
山上 頭上 地上 身上
中国語で「下」が接尾字(S)として使われる例はごくまれで、「地下」が挙げられる。「地上(dìshang)」と「地下(dìxia)」が同じく「地面」を指すのはユニークな現象と言えるだろう。
4.2.3 中国語でもともと二種類の語構成の意味用法があったが、今中日でそれぞれ違う意味しか使われていない漢字語
次の語例が挙げられる。
関門 環視 帰還 求人 親友
関門
日本語:修飾型複合語。N+N。
「関所の門」
中国語:動賓型複合語。V+N。
①動詞。「ドアを閉める」「閉店する」
②形容詞。意味が拡張して、形容詞化し、「最後の」という意味を表す。
環視
日本語:修飾型複合語。V+V。
まわりをとりまいて見ること。
中国語:修飾型複合語。V+V。
視線が回って、(周りを)見る。
日本語の「環視」の「環」は「ぐるりとまわりをとり囲む。」意味であるが、中国語の“环视”の“环”は「一回りまわる。めぐる。」を意味する。どちらも「視る」を修飾している。
親友
日本語:修飾型複合語。A+N。「信頼できる親しい友。仲のよい友人。」
中国語:連合型複合語。A+N。「親戚と友人。」
求人
日本語:動賓型複合語。V+N。
「人材を求める」「雇い入れるため、人を探し求めること。」
中国語:動賓型連語。V+N。
「人に頼む。」
帰還
日本語:連合型複合語。V+V。
遠方の地から帰ってくること。戦地から故郷·基地に帰り着くこと。『大辞林』
中国語:連合型複合語。V+V。
返す。返却する。「帰」も「還」も他動詞である。
4.2.4 日本語では合成語であるが、中国語では合成語でなく、連語である
日本語では合成語で、中国語では連語である漢字語が数多くある。『日中同形異義語辞典』に収録された“出城”(29)“切手”“怪我”などは中国語では合成語ではない。
①否定を表す「不」、「無」、「非」、「未」
「不」、「無」、「非」、「未」は日本語では全部接辞として扱われているが、中国語では「不」と「未」は副詞で、「無」は「動詞·接続詞」であり、「非」は最も複雑で「動詞·接頭詞·副詞」である。つまり、「不」、「無」、「非」、「未」は日本語で品詞として自立できないのに対して、中国語では全部自立できるのである。したがって、日本語で「不」、「無」、「非」、「未」の付いている合成語は中国語で合成語でない可能性がある。次に主に「無」と「不」について例をあげながら考察していく。
「無」は日本語で「…を持たないで(~した)」という意味用法がある。「無銭」「無資格」「無責任」「無記名」などがその例である。中国語で「無」はもともと「…がない」「…を持っていない」ので「…ができない」という意味を表し、日本語と大きく異なっている。
無銭
日本語:派生語。P+N。
金銭を持っていないこと。また、金銭のいらないこと、あるいは金銭を支払わないこと。ただ。
中国語:連語。V+N。「お金がない」
無銭飲食
日本語:飲食店で代金を払わずに飲み食いすること。
中国語:飲食するお金がない。
無資格
日本語:派生語。P+N。
「資格のないこと。」「資格をもたないこと。」
中国語:連語。V+名詞。
「資格がない。」
無資格診療
日本語:資格を持たないで診療を行うこと。
中国語:診療する資格がない。
「不」は中国語で副詞なので、普通直接名詞の前に来ることができない。日本語では接字(P)で、名詞の前に来、評価判断の意味を表すことができる。「不結果」の例を見てみよう。
不結果
日本語:派生語。P+名詞(V+N)。
「結果が良くないこと」「思わしくない結果。不首尾。」
中国語:連語。M+V+N。
「実を結ばない。」
②中国語で介詞の「自」、「在」は動詞的根字の後にくっつきにくい。
出自 混在
「自」は起点を示す語で、日本語で「より」「から」に当たるが、品詞分類は難しい。したがって、「出自」という語は一つのまとまりとして扱われている。中国語では“V+介词”の構成で、語として成立しにくい。“混在”も同じように考えられる。
③中国語で受け身を表す介詞「被」。「被害」の一例が挙げられる。
日本語:動賓型と修飾型。V+N。
「損害をこうむること。危害を受けること。また、受けた損害。」
中国語:連語。受身を表す介詞+V。「殺害される。」
“被害”は「災害を被る」も意味したが、今は「殺害される」の意味しか残っていない。
④中国語で助詞である「着」
「着」は助詞として使われる場合、補助的な役割を果たすことができるが、他のRと結合して、語を構成する働きが弱い。日本語ではRとして使われ、語を構成することができる。次の例が挙げられる。
愛着 活着 吸着 試着 装着 弾着 漂着 落着 恋着
中国語では「着」の意味用法が複雑である。これらの言葉の「着」は助詞で、動作の結果·状態の持続を表し、「ている」か「てある」にあたる。つまり、これらの言葉は「V+助詞」の構成で、複合語でなく、連語の類に入る。日本語では「V+V」の構成である。「着」は複合動詞の後項の働きをし、「行きつくこと」か「衣服などを身につけること」の意味を表す。
愛着
中国語:補足型連語。V+助詞。「愛している。」
日本語:V+Vの構造であるが、サ変動詞として使われない。
「人や物への思いを断ち切れないこと。」
漂着
中国語:補足型連語。V+助詞。「水面などに漂っている。」
日本語:連合型複合語。V+V。「海上をただよい流れて岸につくこと。」
試着
中国語:補足型連語。V+助詞。「ためしに~てみる。」
日本語:連合型複合語。V+V。
「身につけるものが体に合うかどうか、買う前にためしに着てみること。」
⑤中国語の助詞である「了」
完了 満了 読了 投了
中国語では“完了”などは「V+助詞」の構成で、連語である。“了”は動態助詞として用いられ、軽声に発音し、動作·行為の実現·完了などを表す。日本語では、「完了」などは「V+V」の連合型複合語で、「了」は「終わる」「済む」の意味を表すVである。
⑥中国語の助詞である「過」
“看过”,“读过”は中国語では「V+助詞」の構成で、複合語ではなく、連語である。“V+过”は中国語で「したことがある」という意味を表す。日本語では「看過」、「読過」などは「V+V」の連合型複合語で、「過」は「気にとめないで~てしまう」という意味を表し、複合動詞を構成する根字である。
⑦中国語の助動詞の「要」
“要用”は中国語では「(義務や意志などを表す助動詞)+V」の構成で、「…をしようとする」「…しなければならない」などを意味する。連語の類に入る。日本語では「A+N」の修飾型複合語で、「必要なこと。肝要。須要。」「大切な用事。」を意味する。
⑧中国語の助詞である「所」
「所」で始まる中日同形語は数多くある。以下に並べる。
所有(あらゆる) 所謂(いわゆる) 所為 所依
所演 所縁 所課 所懐
所学 所轄 所感 所願
所記 所期 所見 所作
所作 所載 所在 所産
所司 所志 所思 所持
所収 所従 所出 所述
所掌 所信 所生 所説
所蔵 所属 所帯 所知
所長 所定 所伝 所得
所念 所変 所望 所由
所有(しょゆう) 所与 所要 所用
所論 所以(ゆえん)
“所”は中国語では助詞として、動詞の前に用い、名詞句を作る働きをしている。書き言葉に用いることが多い。つまり「所+V」は動詞として使えず、後の名詞を修飾する用法しかない。この点は日本語と違っている。
『広辞苑』第五版の「所(しょ)」の項目で次のように説明している。
③行為·動作などの内容を示す語。…するところ、…するもの。「所感·所蔵」
④受身の意を示す語。…されること。…されるもの。「所載·所与」
上に挙げた大部分の日本語の漢語は③の説明に所属し、ほとんど中国語の使い方と同じであるが、「所轄、所感、所管、所持、所属、所蔵、所有、所用」などが動詞として使えるので、日本語の独特な使い方であると言える。
④の「所」は受身の意味を表す時、中国語で「爲」と共起しなければならないので、「所」だけでは「受身の意を示す」ことができないと思われる。『広辞苑』第五版で「所載」について「書き載せてあること。新聞·雑誌などに記事がのっていること。」と説明しているので、受身の意味がとれないが、「所与」の「与えられること。」「一般に、研究などの出発点として異議なく受け取られる事実·原理。」の説明に「受身」の意味が含まれるところから、日本人の「所+V」の構成に対する感じ方が中国人と大きく違っていると言える。
そして、「所以」は日本語で名詞だけであるが、中国語では名詞の他に、因果関係の意味を表す接続詞として多用されている。
⑨四字漢字語
一喜一憂 学習漢字 執行命令 不易流行 予防戦争
これらの四字漢字語は日本語では複合語として意識されているが、中国語では連語に所属する。
一喜一憂(一喜+一憂)
日本語:連合型複合語。動詞+動詞。
「情況が変わるたびに喜んだり心配したりして落ち着かないこと。
中国語:連合型連語。名詞+名詞。
「二つの知らせがある。一つは良い知らせで、一つは悪い知らせである。」
学習漢字(学習+漢字)
日本語:修飾型複合語。動詞+名詞。
義務教育期間に読み書きを学習すべき漢字。小学校学習指導要領に学年別漢字配当表を掲載する。
中国語:動賓型連語。動詞+名詞。
「漢字を学習する」
不易流行(不易+流行)
日本語:連合型複合語。名詞+名詞。
「(芭蕉の俳諧用語)不易は詩の基本である永遠性。流行はその時々の新風の体。共に風雅の誠から出るものであるから、根元においては一つであるという。」
中国語:修飾型連語。形容詞+動詞。
「流行しやすくない」
執行命令(執行+命令)
日本語:修飾型複合語。動詞+名詞。
「法律を執行するために必要な細則を定めた政令·省令など。」
中国語:動賓型連語。動詞+名詞。
「命令を執行する。」
予防戦争(予防+戦争)
日本語:修飾型複合語。動詞+名詞。
「相手国が自国に脅威を与えているという理由で、先制してしかける戦争。」
中国語:動賓型連語。動詞+名詞。
「戦争を予防する。」
4.3 一方あるいは双方が二種類以上の構成を持っている漢字語
4.3.1 中国語で二種類の構成を持っている言葉
中国語で二種類の語構成を持っているが、日本語で一種類だけの語構成である言葉は次の例が挙げられる。
外面 学会 好学 向上 耕地 最近 在学 重責
生気 積雪 走向 地下 定価 出口 入神
学会
日本語:修飾型複合語。N+N。「学術研究をする学者の会」
中国語:①日本語と同じである。
②連語。V+V。名詞が目的語になる。「学んで出来るようになる。」
例:学会日语/日本語ができるようになる。
③連語。V+助動詞的R。動詞が後に来る。「学んで出来るようになる。」
例:学会开车/車の運転ができるようになる。
好学
日本語:動賓型複合語。V+N。「学問を好むこと。」
中国語:①動賓型複合語。hào xué V+V。
「学ぶのを好む」
②修飾型複合語。hǎo xué A+V。
「学びやすい。」
向上
日本語:動賓型。V+N。
「上に向かって進むこと。前よりすぐれた状態に達すること。進歩。」
中国語:①動賓型。V+N。
「向上する。」
②連語。介詞+N。
後の動詞を修飾する。
「上に向かって」「上を向いて」
例:人生一路向上爬/人生の道をずっと上に向かって登る。
重責
日本語:修飾型。A+N。「重大な責任。」
中国語:①修飾型。A+N。「重い責任。」
②修飾型。A+V。「厳しく責める。厳しく罰する。」
生気
日本語:修飾型。V+N。「いきいきした気力。活気。」
中国語:①動賓型か主語後置型。V+N。「気を生じる。」「気が生じる。」「怒る。」
②修飾型。V+N。「いきいきした気力。活気。」
積雪
日本語:修飾型。V+N。「ふりつもった雪。」
中国語:①主語後置型。V+N。「雪が積もる。」
②修飾型。V+N。「積もった雪。」
走向
日本語:修飾型複合語。V+N。
「傾いた地層面と水平面とが交わって作る直線の示す方向。地層の続いている方向。」
中国語:①連語。V+介詞。「~に向って歩く」「~に向って進む。」
②日本語と同じである。
定価
日本語:修飾型複合語。動詞的根字+名詞的根字。
「商品の、前もって決めてある売値。」
中国語:①動賓型複合語。V+N。
「値段を決める。」
②日本語と同じである。
出口
日本語:修飾型複合語。V+N。「外へ出る口。」
中国語:①動賓型複合語。V+N。「言葉が口を出る。」「(船が)港を出る。」「輸出する。」
②日本語と同じである。
中国語では「口」は「くち」の意味が基本である。「港」は「港口」と呼ばれるので、「船が港を出る」ことを「出口」と表現するのである。また対外貿易は明の時代海路を通して、盛んに行われてきたので、「出口」に「輸出」の意味が生まれたのであろう。
入神
日本語:動賓型複合語。V+N。
神に入る。技術が上達して霊妙の域に達すること。
中国語:①主語後置型か動賓型複合語。V+N。
精神を入れる。精神を集中する。精神が入る。
②日本語と同じである。
4.3.2 日本語で二種類の構成を持っている言葉
日本語で二種類の語構成を持っているが、中国語で一種類の語構成しかない言葉として、「降雨」「製薬」「打球」「多用」「提案」などが挙げられる。
降雨
日本語:①主語後置型複合語。V+N。「雨の降ること。」
②修飾型複合語。V+N。「ふる雨。」
中国語:主語後置型複合語。V+N。「雨が降る。」
製薬
日本語:①動賓型複合語。V+N。「医薬品を製造すること。」
②修飾型複合語。V+N。「製造した薬剤。」
中国語:動賓型複合語。V+N。「医薬品を製造する。」
打球
日本語:①動賓型複合語。V+N。「野球·ゴルフなどで、たまを打つこと。」
②修飾型複合語。V+N。「打ったたま。」
中国語:動賓型複合語。V+N。「ボールを使うスポーツをする」
多用
日本語:①主語後置型複合語。A+N。「用事の多いこと。」
②修飾型複合語。A+V。「多く使用すること。」
中国語:修飾型連語。A+V。「多く使用する」
提案
日本語:①動賓型複合語。V+N。「案を提出すること。」
②修飾型複合語。V+N。「提出した案。」
中国語:修飾型複合語。V+N。「提出した案。」
4.3.3 中日とも二種類以上の語構成を持っている言葉
「好事」「定義」「提議」「投影」「同行」などの例が挙げられる。
好事
日本語:①「こうじ」と読む。修飾型複合語。A+N。「よいこと。めでたいこと。」
②「こうず」と読む。動賓型複合語。V+N。
「かわった物事を好むこと。風流を好むこと。ものずき。」
中国語:①hǎo shì修飾型複合語。A+N。
「よいこと」「めでたい事。慶事」「とんでもないこと。」
②hào shì動賓型複合語。V+N。
[形]もの好きである。余計なおせっかいをしたがる。
定義
日本語:①動賓型複合語。V+N。
「概念の内容を明確に限定すること。」
②修飾型複合語。V+N。
「限定した概念の内容。」
中国語:①動賓型複合語。V+N。
「概念の内容を明確に限定する。」「定義する」
②修飾型複合語。V+N。
「限定した概念の内容。」
提議
日本語:①動賓型複合語。V+N。
「意見·議案を提出すること。」
②修飾型複合語。V+N。
「提出した意見·議案。」
中国語:①動賓型複合語。V+N。
「意見·議案を提出する。」
②修飾型複合語。V+N。
「提出した意見·議案。」
同行
日本語:①修飾型複合語。M+V。「つれだって行くこと。」
②修飾型複合語。A+N。「同じ銀行。」
中国語:①修飾型複合語。tóng háng A+N。「同業である。」
②修飾型複合語。tóng xíng M+V。「一緒に行く。」
4.4 日本語独特な語構成の漢字語
「短縮」「軽減」「肉食」などの漢字語は一見日本語の文法構造に見えるので、和製漢語として、扱われる可能性があるが、《汉语大词典》に収録されているし、古い用例もあるので、もともと中国にあった漢字語であると判定できる。語構成から見れば、「短縮」「軽減」は「A+V」の修飾型複合語に見えるが、「短」「軽」は形容詞以外に、他動詞としても使われたので、「V+V」の連合型複合語とみなすべきである。
日本語にある独特な語構成を持つ中日同形語は次の四種類があげられる。
①当て字を使用した漢字語:
怪我 出来
②複合動詞から来た漢字語:
取消
③仏教用語から来た漢字語:
我慢 無心
上の三種類は分解して理解できないので、中国語の「連綿語」に似ている。
④独特な修飾関係
『日本国語大辞典』は「男女」について次のように説明している。
〔名〕男でありながら女のような、また、女でありながら男のような、性徴や特質をもつもの。男と女。男も女も。夫婦。また、恋愛関係にある男女。
連合型複合語として、こんなに様々な意味に解釈できる漢字語はこれ以外にないだろう。
5. おわりに
中日同形語の語構成を分析し、分類した結果、次のことがわかった。
日本語で合成語であるが、中国語では合成語でなく、連語である漢字語が少なくない。中日同形語の語構成と語義は密接な関係を持っている。意味の違いをもたらす原因として、挙げられるのは語構成の違いである。中日同形語の語構成の違いをもたらす原因はいろいろあるが、漢字の語義と品詞性の多様性、漢字の造語力の違い、日本人と中国人の漢字の意味用法に対する理解の違いや文化的な背景の違いなどが挙げられる。
これらの結果と従来の研究(30)及び長年の日本語教育の経験から、語構成と習得の難易度の関係について次のように判断できる。語構成が同じで意味も同じである中日同形語はもっとも習得しやすい。語構成がまったく違う中日同形語も比較的習得しやすい。二種類以上の語構成をもっている中日同形語は語義の複雑さが増すので、やや習得しにくい。構成が同じで意味が違う中日同形語は習得しにくい。構成が同じで意味用法が似ている中日同形語は最も習得しにくい。語構成の角度からの中日同形語に対する分析は日本語学習者の効率的な習得に寄与できる。
注
(1)野村雅昭、森岡健二、荒川清秀、沈国威などが「語基」を使用している。
(2)荒川清秀が、「語基」と「接辞」だけで漢語の語構成が分析しきれないと指摘した。
(3)野村雅昭はまた「語素」を使ったり、「形態素」を使ったりしている。
斎賀秀夫は「語構成の特質」という論文で語構成要素について、「漢語」、「同義語」、「類義語」、「対義語」、「前部分」、「後部分」など数多くの用語を使っている。
朱京偉は「構成要素の分析から見る中国製漢語と和製漢語」の中で二字漢語の結合関係を分析する時、「前字」「後字」を使ったが、「三字词内部结构的中日比较」で「語素」を使っている。
(4)松村明.大辞林.東京:三省堂,1988,p850.
『国語学大辞典』は「形態素」について、次のように説明している。
複合語を構成する上のこの機能の違いから、構成要素である形態素を分けると、形態素は次の三種に分類される。第一種の語基は、派生語·屈折語の基幹となる形態素で、自立形式もあれば結合形式もある。第二種の接辞(1)は、派生語をつくる形態素で、すべて結合形式である。第三種の接辞(2)は、屈折語をつくる形態素で、すべて結合形式である。形態論は、右のような形態素に基づいて語の構造を記述するが、研究する事項は、(1)形態素の種類、(2)形態素の配列順序、(3)構成された語の特徴、(4)形態素の変化ということになる。 p271
『日本語文法大辞典』は·語基·について次のように説明している。
baseの訳語。語構成要素のうちの基本的部分。「父上」「ご祝辞」「春めく」近づく「の」父「祝辞」「春」「近」がこれに当たり、語基の前又は後に接辞を伴って派生語を構成する。古代語にあっては「さやに」の「さや」も語基と認めることができる。このように、ある共時態の中で、語が構成される場合に基幹と意識される部分をいう。これに対して、語根と語幹は、歴史的な分析の結果として認定されるものをいう。一般的にいうと、語の基幹的要素となるもので、共時的に認識されるものが語基、通時的に認定されるものが語根である。従って、語基は、語根をその中に含むか、語根と一致するかのどちらかになる。(秋元守英) p252
(5)中国語では今連綿詞として扱われている同形語は以下のものがある。
(6)斎賀秀夫.語構成の特質.1997,p37.
(7)吕叔湘.语文常谈.吕叔湘全集.第6卷,辽宁教育出版社,2002,1963.
「中国語語彙の基本単位はやはり一つ一つの単漢字である。現代中国語の中の最も活力のある二千あまりの漢字を学生にはっきり説明すべきである。漢字を外国語のアルファベットのように記号として扱ってはいけない。」(筆者訳)。
(8)「字本位」とは「一つ一つの漢字が中国語の基本構成単位である」という意味である。
(9)本稿で便宜のために語構成の漢字用語を次のようなアルファベッドに省略する。
根字=R 非根字=U 名詞的根字=N 動詞的根字=V
形容詞的根字=A 副詞的根字=M 接頭字=P 接尾字=S
(10)《汉语大词典》は“音字”について次のように解釈している。
用以注音的同音或音近的汉字。
然则先儒音字,比方为音。
唐·张守节《史记正义·论音例》
郑康成注‘六经’,高诱解《吕览》、《淮南》,许慎造《说文》,刘熙制《释名》,始
有譬况,假借以证音字。
清·王鸣盛《蛾术编·论反切所自始》
例えば、「梵」について、《康煕字典》は「帆」を使って、「梵」の発音を説明している。
【唐韻】【韻會】扶泛切,音帆。
本稿では発音を表す漢字は全部音字と呼ぶことにする。特に外国語や外来語の音訳に使われた漢字を指す。
音訳字が使われている同形語として、次の言葉が挙げられる。
鴉片(あへん) 阿弥陀(あみだ) 和尚(おしょう) 伽藍(がらん)
伽羅(きゃら) 沙弥(しゃみ) 沙門(しゃもん) 修羅(しゅら)
招提(しょうだい) 刹那(せつな) 卒塔婆(そとば) 兜率(とそつ)
奈落(ならく) 南無(なむ) 菩薩(ぼさつ) 娑婆(しゃば)
般若(はんにゃ) 浮屠(ふと) 菩提(ぼだい) 摩訶(まか)
牟尼(むに) 弥勒(みろく) 弥撒(ミサ)
「万葉仮名」も音字の一種である。
漢字は一般的に表意文字と思われているが、必ずしもそうとは限らない。音字は音だけを表すが、その他に「形だけ」を表す場合もある。例えば、形だけを表す場合もある。
日本語:八 十 大 丁 川
中国語:丁 十 工 米 田 国
(11)「当て字·宛て字」
漢字の本来の意味とは関係なくその音や訓を借りてあてはめた漢字のうち、その語の表記法として慣用のできたもの。また、そのような用字法。「目出度(めでた)い」「野暮(やぼ)」「呉呉(くれぐれ)」の類。借字。
『大辞林』
次の当て字の例が挙げられる。
浅墓(あさはか) 当前(あたりまえ) 囲炉裏(いろり)
我楽多(がらくた) 怪我(けが) 気配(けはい)
鴨頭(こうとう) 四股(しこ) 洒落(しゃれ)
猪口(ちょく) 呑気(のんき) 馬鹿(ばか)
卑怯(ひきょう) 不憫(ふびん) 味方(みかた)
無茶(むちゃ) 無鉄砲(むてっぽう) 腕白(わんぱく)
剣幕(けんまく) 兎角(とかく)
他愛ない(たあいない)試合の「試」 乙女(おとめ)の「乙」
思惑(おもわく)の「惑」 仕事の「仕」
鴨頭
日本語:吸い物に入れるユズの皮などの薬味。
◆「鴨頭」は「鴨(アフ)」を「カフ」と誤読した当て字。『大辞泉』
中国語:ダックの頭。料理の一つ。
不憫:
日本語:[1]かわいそうなこと。気の毒なこと。また、そのさま。
〔補説〕元来「不便」で、「不憫」「不愍」は当て字『大辞林』
中国語に「不憫」という言葉はないが、字面では「憐憫」と正反対の意味と思われがちであるので、間違えやすいであろう。
(12)日本語と中国語の品詞分類が違うので、同じ漢字でも中国語と日本語で根字と非根字で対応しているとは限らない。「根字」と「非根字」を兼ねる漢字も中日で対応しているとも限らない。
①一部分の漢字は「接字」と「音字」として使われる場合は「非根字」で、その他の場合「根字」である。
老化(U)化学(R)耐性(U)性格(R)基督(U)基本(R)監督(R)
②量詞(助数詞)は数詞の後にくっつく場合は「非根字」で、他の根字とくっつく場合は根字である。
一枚(U)枚挙(R)一頭(U)頭数(R)二本(U)本数(R)
③中国語で助詞か助動詞または介詞の非根字と他の場合の根字を兼ねる漢字。
美的(U)目的(R)看過(U)過程(R)可能(U)能力(R)
(13)日本語では合成語で、中国語では連語である漢字語が数多くある。
次の例が挙げられる。
①名詞+的
意志的 意識的 意図的 印象的 鋭角的 概念的 外面的 化学的
学問的 家庭的 感覚的 感情的 観念的 技術的 奇跡的 貴族的
義務的 経験的 傾向的 形式的 系統的 結果的 効果的 効率的
国際的 個人的 個性的 国民的 国家的 今日的 財政的 散文的
事後的 事前的 実験的 実質的 質的 島国的 事務的 社交的
周期的 重点的 常識的 情趣的 象徴的 女性的 紳士的 心情的
技巧的 心理的 政治的 精神的 制度的 生理的 精力的 世界的
世間的 全国的 大局的 体系的 体質的 大衆的 代表的 大陸的
惰性的 男性的 弾力的 中間的 中心的 直線的 文学的 将来的
哲学的 伝奇的 天才的 道徳的 動物的 特徴的 肉体的 日本的
人間的 悲劇的 表面的 病理的 物質的 物理的 文化的 平面的
方法的 暴力的 牧歌的 本質的 末期的 魅力的 民衆的 民族的
夢幻的 命令的 野心的 野性的 良心的 理論的 倫理的 類型的
例外的 歴史的
②動詞+的
圧倒的 営利的 演繹的 革新的 確定的 学的 過渡的 帰納的
希望的 驚異的 強制的 啓蒙的 献身的 建設的 蠱惑的 殺人的
暫定的 刺激的 試験的 自殺的 実践的 支配的 主導的 人為的
審美的 生産的 生得的 絶望的 漸進的 戦闘的 総括的 装飾的
創造的 対比的 打算的 致命的 重畳的 統計的 独占的 独創的
突発的 破壊的 爆発的 派生的 発展的 反抗的 反射的 飛躍的
分析的 包括的 補助的 優先的 予備的 猟奇的 論証的 論理的
③名詞·動詞+的
記録的 教育的 決定的 組織的
④不+形容詞か動詞
不安定 不一致 不衛生 不介入 不拡大 不確定 不完全 不干渉
不起訴 不均衡 不謹慎 不健康 不健全 不公平 不合理 不十分
不正直 不消化 不親切 不信任 不侵略 不正確 不成功 不誠実
不成立 不鮮明 不注意 不定期 不出来 不適応 不徹底 不統一
不同意 不動心 不透明 不特定 不認可 不熱心 不平等 不必要
不評判 不風流 不勉強 不満足 不明朗 不愉快 不用心 不履行
不連続
(14)三字以上の合成漢字語の分析に「根語」という言葉が使える。《汉语大词典》は“根词(根詞)”について、次のように説明している。
词汇里最原始,最单纯,最基本的词,是基本词汇的核心。在根词的基础上派生出许多其他词来。汉语的根词多数是单音节的,如“人”,“山”,“火”等。
訳:語彙の中で最も原始的で、最も単純で、最も基本的な語で、基本語彙の核心である。根語をもとに、多くの言葉が生まれたのである。漢語の根語の多くは短音節で、例えば、「人」、「山」、「火」など。
筆者は「R+R」の言葉が三字以上の漢字語を構成する時、全部「根語」と呼ぶことにする。
(15)「連合型」は「並列関係」より合理的であるので、この言葉を使ったのである。
(16)「動賓」という呼び方は品詞の一分類である動詞という用語と文法的な働きを表す賓語をいっしょにしているので、ほかの用語と一致しないが、今それに代わる用語がないので、仕方なく使った。
(17)「主語+述語」は一般的な語順であるが、「述語+主語」の構成なので、「主語後置型」と名付けたのである。その他に、「立春」「開花」などもこの類に属する。
(18)日本語での意味は特に断らない限り、『広辞苑』の説明を直接引用したり、少し書き換えたりした。中国語での意味は筆者自身の言葉で説明した。
(19)日本語で「善」「少」「小」「強」「大」などは形容詞の他動詞化と理解される場合があるが、「減少」の「減らして少なくすること。」の意味がまだ説明できるが、「減って少なくなること。」という意味は説明がつかなくなってしまう。「改善」「減少」「縮小」「増強」「増大」などの語構成への理解が分かれても、語全体の意味理解に影響が出ないが、「改正」になると、事情が違ってくる。「改正」は中国語では「V+A」の補足型と理解され、「正しく改められる」の意味を表すが、日本語では「V+V」の連合型で、「正」の意味が消え、「法律·規則·規約などの不適当な点や不備な点を改めること。」の意味を表している。
(20)沈国威(1990)は「V+N」構造の二字漢語名詞について、「一方他動詞、それと支配的共起関係にある名詞群(即ち、対象)の組み合わせは、[V+O]と読まれやすく、構造体は、[V+N]のように動字による装定の形で名詞化することが難しいと予測される。」と唱えているが、筆者が《汉语大词典》や中国の古典文献を調べて、以下の動賓構成の名詞さ見つけた。
画像 画饼 成功 记事 享年 绝句 成约 课税 变体
煎药 定法 出妻 用人 烤鸭 烧饼 举人 连营 累卵
(21)「営業」のような動賓構造の同形語について、第五章(p201~203)と第六章(p264)を参照されたい。
(22)「存現文」とは存在、出現、消失などを表す文を指す。
(23)「納入」の中日での意味の違いは次のとおりである。
日本語:品物や金銭を納めること。
中国語:乗せる。組入れる。抽象的な事物についていう。
(24)「請求」の中日での意味の違いは次のとおりである。
日本語:①こいもとめること。要求。
②公法上·私法上、相手方に対して一定の行為をすることを要求すること。
中国語:願う。頼む。申請。
(25)「提示」の中日での意味の違いは次のとおりである。
日本語:差し出して相手に示すこと。
中国語:ヒントを与える。暗示する。注意する。ヒント。注意。
(26)「落花流水」について詳しくは拙論の「中日同形語の「落花流水」考」を参照されたい。
(27)「失火」について、《汉语大词典》は「发生火灾。」と説明している。「火事が起こった」という意味である。火事が人為的なミスで起こったとは限らない。
「失」の意味について、『漢字源』は次のように説明している。
{動}うしなう(ウシナフ)。中に押さえこんでおくべきものを押さえきれずに、またはうっかりして外へ出してしまう。
「失火」の「失」について、中国語の辞書ではほとんど説明していない。「コントロールできない」と解釈できる。そのほかに「失言」「失笑」「失脚」「失禁」「失態」「失口」「失手」「失足」などが挙げられるが、「失脚」は中日で意味が違う。
(28)日本語の「水に入る」「教室に入る」などのような表現は中国語では“入水”“进房间”と言って、動賓構造とみなされるが、日本語では「水に」「教室に」は補語とみなされているが、ここで、中国語の文法にしたがう。
(29)「出城」は歴史的な話の中で言うが、「本城の周辺に築いた城。」を意味する。中国語では連語で、今は「都市を出る」意味を表す。日本語の「城」と中国語の“城”の意味が違う。「敵を防ぐために築いた軍事的構造物。」の意味では共通しているが、日本語では「堀をつくり石垣をめぐらすなどして築いた堅固な建物。」を指し、お殿様とその家族が住むところであったが、中国語では城壁に囲まれている中は全部“城”に属し、一般人も“城”に住んでいたし、町や繁華街も入っていたので、日本のお城よりずっと広かった。
(30)拙論の「中日同形漢語の誤用分析」を参照されたい。
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