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目的語の前置

时间:2023-04-02 理论教育 版权反馈
【摘要】:第七章 中日同形語と受身1. はじめに日本語と中国語の受動文に関する研究が多くの研究者によって盛んになされてきている。3.2 上述した日本語の中日同形語の受動文に対応する中国語表現日本語の509の受動文は全部直接受動文であるので、本稿は直接受動文を中心に考察していく。間接受動文の中日対照研究は別の機会に譲る。

第七章 中日同形語と受身

1. はじめに

日本語と中国語の受動文(1)に関する研究が多くの研究者によって盛んになされてきている。それぞれの研究が深められるにつれて、受動文の日中対照研究も増えてきた。しかし、中島悦子(2007)が指摘したように、「日本語と中国語との対照研究の分野においては、いまだその研究が十分になされているとはいえず、不明な点も多い。」例えば、中日同形語のサ変動詞の受身に関する研究成果はまだ確認されていない。

そこで、本稿はヴォイスの受身の角度から中日同形語を比較してみたい。

2. 先行研究

受動文の日中対照研究として、中島悦子(2007)と飯嶋美知子(2007)が挙げられる。

中島悦子(2007)は、「受身と日中対照」で志賀直哉の『暗夜行路』とその訳本の《暗夜行路》(漓江出版社1985)を受身の日中対照の資料として、日本語の直接受身文、間接受身文、自動詞の受身などに対応する中国語表現を取り上げ、日中両語を対照した。中島悦子(2007)は日本語の直接受身文と対応する中国語表現を「“被”受身文」、「他動詞能動文」、「無対応」、「自動詞文」、「語彙的受身」の5類に分類し、日本語の和語の動詞(例えば、叱る、死ぬ、握る、怨む、打つ、傷つける、与える…)を中心に、日中の受身の比較を展開した。

飯嶋美知子(2007)は、論説文の受動文を「直接受身」と「内容の受身」に大きく二分類した上で、「直接受身」をさらに「動作主不明」と「動作主あり」の2類に分類した。そして、「動作主不明」の中国語への訳され方を、「“被”構文」、「語彙レベルの受動文」、「意味上の受動文」、主語の明記されている能動文(「能動文1」)、主語が省略されている能動文(「能動文2」)、「存現文」、「“是~的”文」、「慣用表現·固定表現」、「意訳」の9パターンに、「動作主あり」の中国語への訳され方を、「“被”構文」、「語彙レベルの受動文」、「意味上の受動文」、「能動文1」、「能動文2」、「存現文」、「“是~的”文」、「意訳」の8パターンに下位分類し、詳しく考察した。

3. 日本語の中日同形語の受動文に対応する中国語表現

3.1 講談社『日中辞典』で受身形と受身の意味で使われた中日同形語

筆者は講談社『日中辞典』のCD ROMを使い、「され」というキーワードで検索した結果、1387件の例文がヒットした。その中から、中日同形語を含んでいる509の受動文(2)を抽出して統計した結果、310の中日同形語が受身形と受身の意味で使用されていることがわかった。以下、五十音図順で使用頻度によって分類し、表1に整理した。

表1

续表

以上の中日同形語を構成する文字数を見ると、1文字の「愛」、3文字の「二等分」、4文字の「消毒殺菌」を除いて、ほかは全部2文字の熟語であることがわかる。

3.2 上述した日本語の中日同形語の受動文に対応する中国語表現

日本語の509の受動文は全部直接受動文であるので、本稿は直接受動文を中心に考察していく。間接受動文の中日対照研究は別の機会に譲る。

このサ変動詞はほとんど他動詞(3)か自他動詞であるが、「同情」「説教」「反対」のような「に」で対象を表せる自動詞(4)も直接受動文が構築できる。

筆者は509の受身文に対応する中国語の訳文を詳しく分析し、中国語への訳され方によって、大きく「受動文」、「能動文」、「無対応文」に分類して表2にした。

「受動文」はさらに「“被”構文」と「意味上の受動文」に下位分類し、「意味上の受動文」をさらに「“被”以外の受身マーカー構文」と「非情物主語+自動詞構文」に下位分類した。

「能動文」はさらに「動作主不明」と「動作主あり」の2類に分類した。

「無対応文」はさらに「意訳文」、「存現文」、「“是~的”文」、「使役文」などに分類した。

表2

「意味上の受動文」である「非情物主語+自動詞構文」は中国語ではあまり受動文として意識されないので、本当に受動文と言える訳文は「“被”構文」と「“被”以外の受身マーカー構文」で、その数は252で全体の半分にも満たない。

中国語で受動文が構築でき、日本語で受動文が構築できない言葉(詳細後述)は若干あるが、全体的には中国語より日本語のほうで受動文が多用されているといえよう。

3.2.1 受動文

「“被”構文」が多くの方に論じられてきたので、ここでは主に「意味上の受動文」について詳しく考察していく。「意味上の受動文」は「“被”以外の受身マーカー構文」と「非情物主語+自動詞構文」に再分類できる。

「“被”以外の受身マーカー構文」は中島悦子(2007)で「語彙的受身」と、飯嶋美知子(2007)で「語彙レベルの受動文」と呼ばれているが、受身の意味を表す自動詞も語彙に属するので、筆者はそのような呼び方を避けたのである。

次の表3のように、“被”以外の受身マーカーが使われている。

表3

“被”以外の受身マーカーとして、“让”“叫”“给”“由”が挙げられるが、訳文では“让”“叫”“给”が確認できなかった。“让”“叫”“给”は話し言葉で使われるからであろう。“被”“让”“叫”“给”“由”は介詞として受動文に使われるので、受身マーカーとして認められているが、“受”“经”“得”“遭”“挨”などはまだ動詞を保ったまま、介詞化していない。しかし、“经”“经过”の受身マーカーの働きはすでに屈哨兵(2008)によって証明された。屈哨兵(2008)は“经”“经过”のような言葉を“可能被标”と名づけた。筆者は“受”“经”“得”“遭”“挨”などを「準受身マーカー」と呼ぶことにする。

“获”“获得”“赢得”“在……中”“在……下”などにも受身の可能性が含まれているので、「意味上の受動文」に分類したのである。「準受身マーカー」の類に入れるのは無理があるが、便宜上、そのように分類したのである。

次に、上述した受動文と訳文をそれぞれ1例ずつ取り上げる。

(1)契約の当事者は締結した契約に拘束 される/契约的当事人受所订契约的约束。

(2)校則に違反した生徒は厳しく処罰 される/违反校规的学生将受到严厉处罚。

(3)騒乱罪で逮捕される/疑涉骚乱罪而遭逮捕。

(4)提案は38票対45票で否決 された/那个提案以38票对45票遭到了否决。

(5)頭越しに交渉された/遭遇“越顶外交”。

(6)当店ではこのブランドのバッグがシンプルで飽きのこないデザインで幅広い層から支持 されています/在我们店,这个牌子的提包设计简朴大方久用不腻,深得消费者的信赖。

(7)情報はまだ確認 されていない/这个消息还没得到证实。

(8)内容が不適切と判断 されるメッセージは無警告で削除されます/经判断认为内容不合适的留言,将被无警告删除。

(9)水道水は塩素で消毒殺菌 されている/自来水已经过氯气消毒杀菌。

(10)委員会は5人の委員によって構成 されている/委员会由五个委员组成。

(11)救助 されたとき彼はまだかすかに息があった/刚获救时他还有微弱的呼吸。

(12)法案は原案どおり承認された/法案按原案获得了批准。

(13)注意 された生徒はむっとした顔で教師を睨み返した/挨了训的学生不服气地回瞪了教师一眼。

(14)廉直な人柄で周囲から尊敬 されている/为人廉洁正直赢得周围人的尊重。

(15)2人は両親や友人から祝福 されて結婚した/他俩在父母和朋友的祝福中结婚了。

(16)首相は身辺警護のSPに護衛 されて会議に出席した/首相在贴身保镖的护卫下出席了会议。

「非情物主語+自動詞構文」は中島悦子(2007)で「自動詞文」と、飯嶋美知子(2007)で「意味上の受動文」と呼ばれているが、「意味上の受動文」の外延はもっと広いと思われる。

「非情物主語+自動詞構文」の「自動詞」は表面上他動詞のように見えるが、自動詞の使い方も成立している。中国語ではもともと動詞は自他の区別がはっきりしないのである。むしろ自他の意識がないことによって自由に言葉を駆使できる。

訳文の中に使われた「延期」「延長」「解決」「開始」「決定」「更新」「増加」「蓄積」「中断」などが日本語でも自他両用サ変動詞であるので、まったく問題にならない。

一方では、「開放」「上映」「形成」「出版」「実施」「増強」などの言葉は中国語では自他両用であるが、日本語ではサ変他動詞の使い方しかないので、中国語から日本語に翻訳される際、中国人には受動文がやや使われにくい。

3.3 能動文

能動文は「動作主不明」と「動作主あり」に分類した。

3.3.1 動作主不明

(17)雑念がわいて思考が邪魔される/产生了杂念,影响了思考。

(18)面接では、英会話の能力が試験される/面试时要测验英语会话能力。

(17)の受動文は動作主が全くわからないといってもいい。

(18)の受動文は常識から、動作主が「試験官」であることが推測できる。訳文には動作主が訳されていない。

3.3.2 動作主あり

動作主が受動文で「に」「から「によって」などで表される場合、すぐに判断できる。例えば、

(19)ガイドに過分の謝礼を要求された/导游索取过多的报酬。

(20)友人 から本を返すよう催促された/我朋友催促我还书。

(21)大臣の発言によって大論争が惹起された/大臣的讲话引起了一场大论战。

文脈によって、受動文に潜んでいる動作主を探し出して、訳される場合もある。次の例を見よう。

(22)料理 に適度な酸味があると食欲が増進される/菜中带有一点儿酸味更能增加食欲。

(23)災害時に自衛隊 の戦闘糧食が被災者に供出された/在灾害发生时自卫队把他们的携带粮提供给了灾民。

(24)あいつの約束はいつも空手形で実行されたことがない/他总是开空头支票,从来没有兑现过。

(22)の能動文として「酸味のある料理が食欲を増進する」と判断できる。「料理」が能動文の主語なので、動作主である。(23)(24)の動作主は受動文では所有者の形で現れたのである。

受動文で空間を表す場所が動作主として抽象的な名詞に訳された能動文も少なくない。例えば、

(25)うちの市 にもようやく児童相談所が開設された/我市也 终于设立了儿童咨询所。

(26)この文集 には卒業生の思いが凝縮されている/这本文集凝聚了全体毕业生的情怀。

(27)この国 では多量の鉄が生産される/这个国家生产大量的铁。

(25)の「うちの市」、(26)の「この文集」、(27)の「この国」は訳文では意味が変えられてしまった。

次の「場所」と「主語」を兼ねる文はユニークな現象といえよう。

(28)この作品 には,作者自身の内面がたぶんに投影されている/这个作品中,大量映衬了作者的内心世界。

(29)日記 には書き手の真情が流露されている/日记中流露出作者的真情。

(30)この一言 にはいろいろな意味が包含されている/这一句话里包含着很多意思。

次の受動文の「の間で」「間に」も空間と主語両方を表している。

(31)警官と犯人との間 で銃撃戦が展開された/警察与罪犯之间展开了枪击战。

(32)両国間に講和条約が締結された/两国间签署了媾和条约。

もとの受動文に動作主が現れていないが、文脈から推測して、動作主を付け加えた訳文も少なくない。

(33)行員たちはピストルで威嚇された/歹徒用手枪威胁银行工作人员。

(34)この新技術は景気回復の起爆剤として期待されている/人们期待着这项新技术能带动经济复苏。

(35)石油危機の再来が懸念されている/人们担心会再次发生石油危机。

(33)は一般的な常識から動作主が“歹徒”であることが推測できる。(34)、(35)は大勢の人の「期待」と「懸念」を表しているので、“人们”と訳されたのである。

3.3.3 目的語の前置

受動文を能動文に翻訳するとき、“对”“把”などをもって目的語を動詞の前に前置させるのも訳文の特徴の一つといえよう。

(36)カンニングをした者は厳重に処分される/对考试作弊者严加惩罚。

(37)新人賞作家の第2作は評論家から手厳しく批評された/对于获得新人奖的作家的第二部作品,评论家给予了毫不留情的批评。

(38)利益は株主に分配される/把盈利分配给股东。

3.4 無対応文

「無対応文」はさらに「意訳文」「存現文」「“是~的”文」「使役文」「形容詞文·ほか」に下位分類できる。「意訳文」「存現文」「“是~的”文」「使役文」は他の研究者によく論じられてきたので、ここで「形容詞文·ほか」だけ取り上げる。

「形容詞文」とは訳文の述語が形容詞である文のことである。次の例を見よう。

(39)洗練 された文章/洗练的文章。

(40)この就業規則は全社員に適用される/这个就业规则适用于所有的员工。

(41)歩行者は車より優先されるべきだ/行人应该比汽车优先。

日本語では(39)の「洗練」と(40)の「適用」は名詞·サ変他動詞で、(41)の「優先」は名詞·サ変自他動詞であるが、中国語では現在全部形容詞として使われているので、訳文で形容詞に訳されたわけである。

そのほか、中国語では名詞で、日本語で名詞·サ変他動詞である中日同形語も少なくない。(42)の「彩色」は代表的な例である。

(42)美しく彩色 された陶器/美丽彩色的陶器。

3.5 訳文における中日同形語の使用率

509の受動文と、対応する中国語への訳文を比較し、統計した結果、日本語の受動文と訳文に両方使用された中日同形語が139あること、日本語の受動文と対応する中日同形語を使用した訳文は226あることがわかった。以下、使用頻度により、五十音図順で表4にした。

表4

以上統計した訳文での中日同形語の使用数と日本語受動文での中国語の使用数を用いて、使用語数の比率を算出できる。

使用語数の比率:139÷310=44.8%

また中日同形語が使用された訳文の数と日本語受動文の数を用いて、使用文数の比率を算出できる。

使用文数の比率:226÷509=44.4%

訳文での中日同形語の使用は全部適切であるとは限らないし、他の未使用の中日同形語が適切な訳語として使われる可能性もないわけではないが、訳文での中日同形語の使用語数の比率も使用文数の比率も45%を下回っている。半分ぐらいの中日同形語は意味用法などにずれがあり、対応していないことを反映した。

3.6 訳文に中日同形語が使用されなかった要因

訳文に使われなかった言葉の意味用法などを比較し、次の4類に分類した。

①意味用法にほとんどずれがなく、そのまま訳文で使える言葉

その例として、次のものが挙げられる。

威嚇 解釈 開設 拡大 隔絶 逆転 凝縮 駆逐 検出

誤解 催促 殺害 刺激 実行 支配 収監 収集 蹂躙

順延 設置 中止 締結 判断 非難 報道 誘拐

②意味にずれがある言葉

愛 依頼 破門 改正 回航 解放 供出 懸念 検挙

拘束 告訴 建立 質問 樹立 召喚 請求 宣告 注意

配合 放置 翻弄 約束 猶予 輸入 要求 陵辱

③品詞性にずれがある言葉

a.中国語では自動詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である。

寸断 運転 併称 結党 執筆 出題 除名 免職 課税

発令 分類

b.中国語では名詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である。

懸念 邪魔 処方 増幅 媒介 種別 二等分

c.中国語では形容詞で、日本語では名詞·サ変自他動詞である。

完備

④日本語でよく使われているが、中国語であまり使わなくなった

言葉

解任 開封 刊行 絞殺 削除 指摘 討議 封印 閉鎖

上述した②③④が中国語への訳文に関係の中日同形語が使われなかった要因といえよう。

4. 中日同形語の受動文を構築する可能性の比較

上述の内容から、中日同形語は意味、品詞性、文化の差異などによって受動文を構築する機能が必ずしも一致していないことがわかる。以下、「中日とも受動文を構築できる言葉」「中日とも受動文を構築できない言葉」「日本語で受動文を構築できるが、中国語で受動文を構築できない言葉」「中国語で受動文を構築できるが、日本語では受動文を構築できない言葉」の4類に分類して、考察していく。

4.1 中日とも受動文が構築できる中日同形語

中日とも受動文が構築できる中日同形語は以下の6類に分類できる。

①中国語では他動詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である言葉

中国語に受動文より能動文が多用される傾向があることは多くの研究者によって明らかにされたが、大部分の中日同形語の他動詞が受動文を構築できる点では対応している。

講談社『日中辞典』から抽出した310の中日同形語に中日とも他動詞である言葉がたくさん含まれている。次の例が挙げられる。

記載 建造 更新 削減 重視 省略 製造 設計 束縛

尊敬 凍結 淘汰

②中国語では自他動詞で、日本語では名詞·サ変自他動詞である言葉

中日とも自他動詞として使える同形語も少なくない。次に挙げられる同形語の中で、「開始」「後悔」「増進」「流露」以外の言葉は全部受動文を構築できる。

移動 延期 延長 解決 解散 開始 拡大 確定 加速

完成 呼吸 継続 決定 結合 結束 減少 後悔 実現

集中 縮小 消耗 増加 増進 注意 転移 展開 暴露

普及 埋蔵 流露 連絡

「開始」「後悔」「増進」「流露」の四つの言葉を“被开始”“被后悔”“被增进”“被流露”をもって北京大学漢語言語学研究センターがオンラインで公開しているコーパス(以下「コーパス」と省略する)で検索したが、用例が見つからなかった。受動文が作られにくいことがわかる。

③中国語では自動詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である言葉

一部の「動賓」構成の同形語は中国語で自動詞として使われるが、日本語のように目的語を持って能動文を構築することができない。しかし、受動文は成立する。たとえば、次の同形語が挙げられる。

解体 消毒 分類 除名 免職 課税

(43)按厂规厂法,这3名女工将被除名。  (コーパス)工場の規定によって、3人の女子工員が除名 されることになった。(笔者译)

“除名女工”のように目的語を持つことができないが,“把女工除名”のように、介詞“把”“对”をもって対象を動詞の前に前置させることができる。上述した同形語は“把某物解体”、“把某人免职”、“对某物消毒”、“对某物课税”、“对(或把)某物分类”のように表現できる。

6つの同形語の中で「課税」だけ対象が中国語と違う。

(44)給与収入が103万円を超えると所得税が課税 される。/工资的年收超过103万日元,要征收所得税。(『日中辞典』)

日本語では「課税する」目的語が「所得税」のような「税」である。「課税する」対象物は「に」で表される。例えば、

(45)輸入品に課税する/对进口商品征税。(笔者译)

(『大辞泉』)

④中国語では他動詞で、日本語では名詞·サ変自動詞である言葉

次の同形語は中国語では他動詞として使われ、動詞の後に直接目的語を持つことができるが、日本語で「に」を用いて、動作の対象を表すことができる自動詞として扱われている。しかし、他動詞と同じように直接受動文が構築できる。次の例が挙げられる。

影響 抗議 賛成 抵抗 同意 同情 反抗 反対 服従

報復

(46)年轻的女人也需要被同情。  (コーパス)

若い女性も同情 される必要がある。(笔者译)

⑤中国語では形容詞·他動詞で、日本語ではサ変自他動詞である言葉

(47)这严峻的气氛也许能被缓和下来。  (コーパス)

この険しい雰囲気 がやわらげられるかもしれない。(笔者译)

⑥中国語では名詞·形容詞·他動詞で、日本語では名詞·他動詞である言葉

「誇張」という言葉は中国語で他動詞として使われるとき、能動文でやや使われにくい。受動文で使われるほうが自然である。

(48)事实有可能被夸张。  (コーパス)

事実が誇張 されたおそれがある。(笔者译)

4.2 中日とも受動文を構築できない同形語

中日とも受動文を構築できない同形語はなかなか探しにくい。また受動文を構築できるかどうか判断するのも非常に難しい。

現在「忍耐」しか見つかっていない。受身の「忍耐される」と“被忍耐”の使い方が確認されていないので、「忍耐」は受動文を構築できない可能性が高いと思われる。

4.3 日本語では受動文が構築できるが、中国語では受動文が構築できない同形語

これはさらに次の4類に分類できる。

①中国語では他動詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である

言葉

演出 交渉 惹起 潤色 象徴 締結 内蔵 養成

以上の言葉に“被”つけて、コーパスで検索したが、1例も見つからなかった。また、日常生活で受身の形で使われにくい。

(49)「源氏物語」に象徴 される平安中期の宮廷文化を育んだ。(『朝日新聞』)

孕育了以《源氏物语》为代表的平安中期的宫廷文化。(笔者译)

②中国語では自動詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である言葉

運転 営業 結党 執筆 推理 寸断 出題 併称 発令

「運転」「寸断」「併称」はもともと中国語で自動詞として使われたが、日本語に入って他動詞に変えられて、受身の用法を持つようになったのである。

「営業」「結党」「執筆」「推理」「出題」「発令」はみな「動賓」構造の言葉である。「動賓」構成の複合語は中国語でほとんど自動詞として使われる。“动员”“关心”のような他動詞は多くない。これらの複合語にすでに目的語が含まれているので、中国語では更に別の目的語を持つのは難しいからであろう。しかし、日本語では全部目的語を持つことができるし、受動文も構築できる。(

50)この電車は10分間隔で運転 されている/这条线的电车每隔十分钟开一趟。  (『日中辞典』)

(51)この小説は1998年に執筆 され,同年冬に出版された/这部小说1998年开始写,在那年冬天出版的。 (『日中辞典』)

(52)水害で交通が寸断 された/由于水灾,造成交通多处阻断。

(『日中辞典』)

(53)梅雨前線の発達に伴い東海地方に警報が発令 された/随着梅雨前锋的迅速发展,东海地区发布了大雨洪水警报。

(『日中辞典』)

③中国語では名詞で、日本語では名詞·サ変他動詞である言葉

次の同形語は中国語では名詞として使われているので、受動文を構築できないが、日本語では他動詞なので、受動文を構築できる。

意味 含意 契約 懸念 邪魔 種別 処方 信用 増幅

二等分 媒介

“处方”“信用”は中国語で動詞としての使い方があったが、今は消えてしまった。“意味”(5)は中国語で動詞として使われるとき、あとに「着」をつけなければならない。その他の言葉も名詞の使い方しかない。

(54)電流が真空管内で増幅 される/电流在电子管内增强。(『日中辞典』)

(55)国内生产总值增幅超过10%。  (コーパス)

GDPの 増加幅が10%を超えた。  (笔者译)

④中国語では形容詞で、日本語では名詞·サ変他動詞かサ変自

他動詞である言葉

完備 洗練 鎮静 鎮定 徹底 特定 悲観 優先 適用

上の「優先」以外の言葉は中国の古代で動詞としての使い方があったが、だんだん動詞から形容詞化して、定着してしまった。日本語ではまだその動作性が保たれているので、動詞として使われているのである。

(56)文章结构紧凑,文字洗练/文章は構成が緊密で、表現が洗練されている。  (『中日辞典』)

(56)のように、これらの言葉は中国語から日本語に翻訳されるとき、受動文が使用されなければならない。誤用が生じやすい言葉群であるといえよう。

4.4 中国語では受動文が構築できるが、日本語では受動文が構築できない同形語

この類の同形語はさらに次の5類に分類できる。

①中国語では他動詞か自他動詞で、日本語では名詞·サ変自動詞である言葉この類の同形語は次の例が挙げられる。

他動詞:懐疑 激怒 交代 鼓動 葬送 超過 通過 伝播

発覚 発現

自他動詞:感染 感動 消滅 接触 重複 伝染 突撃

突出 燃焼 発展 分裂

(57)市民们被激怒了。(コーパス)/市民が憤慨した。

(笔者译)

「激怒」は中国語では他動詞で、「怒らせる」の意味を表すが、日本語では自動詞で、「激しく怒る」意味である。日本語で個別的に「激怒される」が「迷惑の受身」の意味で使われる可能性がある。

(58)大家被他的话感动了/みんなは彼の話に感動 した。

(『中日辞典』)

中国語では「感動」は自他動詞なので、“被感动”が使えるが、日本語では自動詞なので、訳文では「感動した」になったのである。

②中国語では他動詞か自他動詞で、日本語では名詞である言葉この類の例として次の同形語が挙げられる。

圧制 運輸 危害 犠牲 参考 収入 需要 想念 損害

損失 打撃 迷信

(コーパス)?

(59)冒着被打击报复危险挺身而出。 (コーパス)

打撃を受 け報復される危険を買って出た。 (笔者译)

(60)只有政府撤销派兵决定才能避免更多的生命被牺牲。

政府が派兵決定を撤回しなければ、更なる多くの人の犠牲が避けられない。  (笔者译)

これらの言葉の受身は中国語から日本語に翻訳されるとき、「~される」に訳されがちなので、注意が必要である。

③中国語では形容詞·他動詞で、日本語では名詞·形容動詞である言葉

中国語は形容詞の他動詞化が一つの特徴である。次の同形語は中国語では形容詞と他動詞であるが、日本語では名詞と形容動詞である。

温暖 可憐 疎遠 怠慢 豊富 明確 模糊

これらの言葉は中国語で全部“被”をつけて受動文を構築できるが、日本語ではサ変動詞ではないので、受動文が成立しない。中国語から日本語に翻訳するとき、形容動詞を使ったり意訳したりしなければならない。

(61)欧洲人一直被疏远。  (コーパス)

ヨーロッパ人はずっと疎遠 にされていた。  (笔者译)

(62)道德标准被模糊和颠倒。  (コーパス)

道徳の基準が曖昧 にされたり逆さまにされたりしてしまった。

(笔者译)

④中国語では形容詞·他動詞で、日本語では名詞·サ変自動詞

である言葉

この類の同形語は、「充実」「満足」「迷惑」「彎曲」が挙げられる。中国語では他動詞としても使われ、受動文が構築できる。例えば、

(63)当这些需求被满足时,客人就感到是受到了尊重。(コーパス)

これらのニーズが満 たされたとき、お客様は尊重されていると

思うようになる。(笔者译)

⑤中国語では形容詞·他動詞で、日本語では名詞·サ変自他動詞である言葉

この類の同形語は少ないが、「勉強」が挙げられる。

日本語では·勉強される·は尊敬の意味を表しているが、受身の意味で使用された例がまだ確認されていない。中国語では受動文が構築できる。例えば、

(64)不喜欢勉强别人,也不喜欢被勉强!  (百度网)

人に無理強いすることも無理強いされることも好きではない。

(笔者译)

5. おわりに

本稿は講談社『日中辞典』に出た中日同形語の受動文を抽出して、対応する中国語の訳文を細かく分析して、訳文を大きく「受動文」「能動文」「無対応文」に分類した。訳文の半数以上が受動文の形式を取っていない。訳文の受動文では“被”以外の受身マーカーとして、“由”が使用されたが、話し言葉で使われる“让”“叫”“给”は訳文では確認できなかった。書き言葉を重んじる傾向がうかがわれる。そして「準受身マーカー」である“获”“获得”“赢得”及び“在……中”“在……下”などの表現に受身が含意されていることがわかった。「能動文」では動作主が多様であること、無対応文では「使役文」「形容詞文」なども可能であること、また訳文で使われた中日同形語の数が全体の半分にも満たなかった原因が中日同形語の語義のずれ、品詞性の不一致、言語環境の変化及び訳者自身などにあることがわかった。更に研究対象を中日同形語全体に広げ、中日同形語の品詞性に基づいて、双方の受動文を構築する可能性を比較検討した結果、その実態が非常に複雑であること、中日とも一部分の他動詞で受動文を構築できないこと、中国語の一部分の「動賓」構造の自動詞で受動文を構築できることがわかった。

(1)日本語の“被动句”に「受動文」と「受身文」の2種の言い方があるが、筆者は「受動文」を使うようにしている。

(2)全く同じ文や長い文に含まれた短い文を除外した。

(3)「忙殺」の「殺」は「意味を強めるための助辞」で、「殺す」意味ではない。「忙殺」は「非常に忙しい」という意味で、他動詞ではない。『岩波国語辞典』では「《多く「―される」の形で使って》非常に忙しいこと。仕事などに追いまくられること。」と説明している。意味の説明と使い方が矛盾していることがわかる。これは村木新次郎に「みかけだけの受動文」と呼ばれている。「悩殺」も同じである。

(4)森田良行が「影響する」のような「ニ」格を取る自動詞の受身を「自動詞による直接受身」と呼んでいる。筆者はその説に従う。

(5)『中国語常用動詞例解辞典』には“意味着”が一つの言葉として収録されている。

例文出典

相原茂.中日辞典(CD ROM付き).講談社,2010.

相原茂.日中辞典(CD ROM付き).講談社,2006.

松村明監修,小学館『大辞泉』編集部.大辞泉,増補·新装版.小学館,1998.

『朝日新聞』,2011年02月25日,夕刊

http://www.baidu.com/s?bs=%B1%BB%BE%AD%C0% FA&f=8&wd=%B1%BB%C3%E3%C7%BF

コーパス:http://ccl.pku.edu.cn:8080/ccl_corpus/search?dir =xiandai

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