ザトラウスキーは「話段」の特徴としていくつかのことを挙げたが、その中で最も重要な特徴であり、また「話段」の認定と最も緊密に関連しているのは、「発話機能」である。
ザトラウスキー(1993)は「発話」を談話の基本単位として用い、「発話機能」を「話段」の認定に大きく働く指標として見なしている。この小節では、「発話」という単位の具体像を探ってみる。
2.4.1.1 「発話」の特徴
文章の基本単位が「文」と見なされたように、談話の基本単位は「発話」と見なされる。前節で紹介したように、文章と談話は同じく一まとまりのコミュニケーションとして、文字と音声という媒体による区別があるだけであるが、それぞれの基本単位となる「文」と「発話」の区別は決してこのような簡単なものではない。
まず、文と発話が有する意味が違う。
リーチ(1983)は、文の意味と発話の意味が違い、単語や文などの言語形式が有する意味を意義(sense)、発話の意味を効力(force)として区別している。
次に、文と発話の姿が違う。
杉戸(1987:83)では、「発話」という単位について、次のように述べている。
この発話という単位は、文法でいう文よりも短い、文節や句や語、ないしそれらの言いさしの部分だけ、ということもあれば、ふたつ以上の文の連続であることもあるという、長短まちまちの姿をとる。
(杉戸1987:83)
すなわち、「発話」は言語コミュニケーションの単位として、多彩な姿を持ち、その一種として「文」がある。
さらに、文と発話の依存状況が違う。
山岡他(2010)は「文」と比較しながら、「発話」の特徴について次のように述べた。
発話状況から切り離され、言語形式(音声·文字)のみによって構成される言語単位が文(sentence)である。
いっぽう、対人コミュニケーションにおける特定の発話状況の中で文を発することによって、特定的で具体的な意味を伝達するのが発話(utterance)である。文は発話の構成要素の一つである。
(山岡他2010:11)
山岡他(2010)は「文」が「発話」の構成要素と主張し、「発話」が発話状況に依存する具体的な言語単位であるのに対して、「文」は直接表裏をなす抽象的な単位であると指摘した。
以上、「文」との対照によって、「発話」の特徴が明らかになった。すなわち、「発話」は対人コミュニケーションにおける発話状況に依存する具体的言語単位として、長短様々な姿を持っており、それぞれ何らかの「効力」を持っているものであると考えられる。
2.4.1.2 「発話」の定義と分類
長く続く音声言語において、一つずつの「発話」をどのように認定すればいいだろうか。これについて、杉戸(1987)は「発話」を次のように定義している。
「発話」:一人の参加者のひとまとまりの音声言語連続(笑い声や短いあいづちも含む)で、他の参加者の音声言語連続(同一)とかポーズ(空白時間)によって区切られる。
(杉戸1987:83)
また、杉戸(1987)によれば、「発話」には、「実質的な発話」と「あいづち的な発話」の2種類のものがある。「あいづち的な発話」と「実質的な発話」はそれぞれ次のように定義されている。
「あいづち的な発話」:先行する発話をそのままくりかえす、オーム返しや単純な聞き返しの発話。「エーッ!」「マア」「ホー」などの感動詞だけの発話。笑い声。実質的な内容を積極的に表現する(たんなるくり返し以外の、名詞、動詞など)を含まず、また判断·要求·質問など聞き手に積極的な働きかけもしないような発話。
「実質的な発話」:「あいづち的な発話」以外の発話。なんらかの実質的な内容を表す言語形式を含み、判断、説明、質問、回答、要求など事実の叙述や聞き手への働きかけをする発話。
(杉戸1987:88)
杉戸の規定では、「発話」という単位が音声によって区切られているため、「発話」という単位は談話における参加者同士のやりとりを追うには、そのやりとりの実際上の区切りとしてかなり明快な手がかりになると思われる。また、杉戸は「発話」を2分類し、あいづちの使用およびその役割を重視して、「あいづち的な発話」を「実質的な発話」と区別した。これによって、「実質的な発話」と異なる、「あいづち的な発話」の役割を見分け、談話の構成を考察することは非常に意義深いと思われる。例えば、杉戸·沢木(1977、1979)は日常的な買い物の会話や自由談話におけるあいづち的な発話を分析しているが、その分析方法をとった理由について、杉戸(1987:89)は「あいづち的な発話の多少をたどることによって、それぞれの参加者がそのつど談話にどんな態度で(能動的にか、受動的にか、具体的には、自分から話題を提供し連続させるような発話をするか、ほかの参加者の出す話題についていっているだけか)参加しているのかを知る手がかりのひとつを得ようとするわけである」と述べている。
「発話機能」について、ザトラウスキー(1997:176)は「ある発話が談話の展開において果たす働きのことである」と大雑把に定義した。それに対して、山岡(2008:2)では、発話機能に「話者がある発話を行う際に、その発話が聴者に対して果たす対人的機能を概念化したもの」との明確な定義が与えられている。
また、山岡他(2010:115)は発話行為と発話機能を区別し、両者の相違点について、「『行為』(act)とは話者の立場からの用語であり、『機能』(function)とは聴者の立場からの用語である。それゆえに、発話行為は独話を考慮に入れるが、発話機能は会話のみを扱う」と述べている。さらに、山岡他(2010:110)によれば、発話機能論は「会話において複数の発話参与者(話者と聴者の交代による相互的な参与者)が共同で一つの談話を構築していくという特徴や、その際の話者間の対称性、相互依存性に着目する視点が発話行為論より格段に優れている」という。
以上より、「発話機能」の分析は会話参与者の相互行為による依頼談話の構造の解明に非常に有効な手がかりであると考えられる。
「発話機能」は、ザトラウスキーや山岡によって初めて提唱された概念ではない。日本語の会話分析に用いられた「発話機能」の源となっているのは国立国語研究所(1960)における「表現意図」だと思われる。
本小節では、以下まず国立国語研究所(1960)による「発話機能」の分類および、この分類を実際の会話分析に応用し、改善したザトラウスキー(1997)の「発話機能」の分類を紹介する。次に、ザトラウスキー(1993,1997)の分類を検討した上で、発話の談話展開に関わる一面の機能を持つ発話要素、すなわち「話段」の認定に関わっている形態的な要素をまとめる。
2.4.3.1 日本語会話における「発話機能」の応用
日本では、会話や談話を構成する各発話が、会話参与者間のコミュニケーション上にどのような機能をもっているのかは、一般的に「発話機能」という用語で説明されている。その萌芽としては国立国語研究所(1960,1987)がある。
国立国語研究所(1960:87)は、対話資料を分析し、「表現意図」を「言語主体が文全体にこめるところの、いわゆる命令·質問·叙述·応答などの内容のことである」と定義した。また、「表現意図」には、「個別的表現意図」と「一般的表現意図」の2種類あると述べ、「表現意図」の分類を行なう対象として、「一般的表現意図」を取り上げている。そして、その分類の結果を、以下の図2-1のように示している。
図2-1 表現意図の分類とそれに応ずる文表現について(国立国語研究所1960:88)
図2-1から分かるように、国立国語研究所(1960)の分類は「表現意図」と文表現の形式との対応を重視している。すなわち、これは国立国語研究所(1960:88)が自ら述べているように、表現意図の大まかな分類ではなく、表現意図から見た文表現の分類である。
その後、国立国語研究所(1987)は本格的な談話分析を意図して、会話の映像教材の関連資料として、映像教材内の全発話の特徴記述をⅠ文型の部、Ⅱ発話機能の部として、構造と機能の両面から教材文の分析·記述を行った。また、国立国語研究所(1987:155-156)は「発話行為が成立する場面を形成する諸条件」を「①発話の動機(場面メアテの条件)」「②働きかけの種類(聞き手メアテの条件)」「③発話内容に対する態度(素材メアテの条件)」という「3種の範疇」によって記述した。そのうち、「②働きかけの種類(聞き手メアテの条件)」において、「マトモの聞き手を想定する」場合、「発話機能」を「要求」と「非要求」とに大別し、具体的に①〈情報要求〉(〈質問〉〈同意要求〉)、②〈行為要求〉(〈単独行為要求〉〈共同行為要求〉)、③〈注目要求〉という「要求」類型に対して、④〈情報提供〉、⑤〈意志表示〉、⑥〈注目表示〉という「非要求」類型が挙げられている。この分類法は、その後のザトラウスキー(1993,1997)や熊谷(1997)等によって応用され、日本語会話分析の全般に大きな影響を与えた。
ここで、本研究における「発話機能」の枠組みの基本となるザトラウスキー(1993,1997)の分類を紹介してみよう。
2.4.3.2 ザトラウスキー(1993,1997)による「発話機能」の分類
ザトラウスキー(1997)における発話機能の種類や名称は、ザトラウスキー(1993)の勧誘談話分析におけるものと同様である。
ザトラウスキー(1993)は、日本語の電話による勧誘の談話構造を分析する際に、上述の国立国語研究所(1987)の「発話機能」を一部修正し、全発話を表2-1に示したように、12類22種の「発話機能」に分類した。
表2-1 12種類の「発話機能」
(ザトラウスキー1993:67)
ザトラウスキー(1997)は自らの分類(1993)に基づき、さらに会話参与者同士のかかわり方として、12種類の発話機能を「要求」「表示·提供」「受容」という3類に大別した。その分類および発話機能の用法としては、以下の表2-2に示されたようなものがある。
表2-2 談話における発話機能の種類
(ザトラウスキー1997:168)
ザトラウスキー(1997:169)は上記の分類および発話機能による会話参加者のかかわりあいをまとめて、基本的に「『要求』に対しては『表示·提供』、『表示·提供』に対しては『受容』か『要求』、『受容』に対しては『受容』」という組み合わせを示している。このように、発話機能を3類にまとめることにより、各機能の談話における働き、参加者との関係が明らかになっている。
しかし、ザトラウスキー(1993,1997)の分類について、疑問を感じるところがある。それは、発話機能の設定にアンバランスな点が見られることである。
まず、発話機能の設定にレベル的な違いが見られる。例えば、「Ⅰ.要求」類別において、〈同意要求〉という発話機能が〈情報要求〉〈行為要求〉と同じレベルに位置付けられているのは適当ではないと思われる。これについては、国立国語研究所(1987)の分類でも、〈同意要求〉が〈情報要求〉という発話機能の下位項目として提示されている。
次に、発話機能の設定に性質上の違いが見られる。ザトラウスキー(1993)によって新しく設定された〈談話表示〉という発話機能について、ザトラウスキー(1993:67)は「談話の展開そのものに言及する『接続表現』『メタ言語的発話』などを含む」と定義付けている。この定義から分かるように、〈談話表示〉という機能は聞き手に向けて何か情報を発信するのではなく、主に談話の前後接続関係や談話の展開に働きかけている。そうすると、〈談話表示〉という発話機能はザトラウスキー(1997)による「Ⅱ.表示·提供」におけるほかの発話機能と明らかに性質が異なる。
さらに、発話機能の設定にスケールの違いが見られる。具体的には、また〈談話表示〉という発話機能を取上げて説明する。〈談話表示〉の定義に述べたように、〈談話表示〉という発話機能は発話表現自体の効力を指すというより、主に発話に含まれる「接続表現」などの機能を指している。そのため、〈談話表示〉という発話機能は「あいづち的な発話」か「実質的な発話」の効力を表すほかの発話機能とスケールが異なるのではないかと考えられる。
以上、ザトラウスキー(1993,1907)の分類の問題点について指摘してきた。しかし、ザトラウスキー(1993)によって新しく設定された〈談話表示〉という発話機能はザトラウスキーの分類にアンバランスをもたらしながらも、新しい提示を示している。すなわち、発話の機能には山岡(2008)で定義されたような「対人的な」効力だけではなく、発話に含まれる「接続表現」や「メタ言語的発話」によって、談話展開に関わるような一面もある。これについて、発話の機能を多角的に考察する必要があると主張した熊谷(1997)[1]においても、「会話の流れの構成」というカテゴリーを設けて、その中で発話の「談話構成上のはたらき」を明らかにした。従って、本研究は、熊谷(1997)の言う発話の「談話構成上のはたらき」という機能を重視し、次の項では、これに関する先行研究を紹介しながら、ザトラウスキー(1993)の分類を検討する。
2.4.3.3 談話の構成に関わる言語要素
1)談話標識
談話の構造と関わる言語要素の機能について、「談話標識」と称して分析を行う研究がある。談話標識に注目した初期の研究として、James(1972)、Sinclair&Coulthard(1975)がある。とりわけ、Sinclair&Coulthard(1975)は談話分析の立場から、談話の構成や型の理論を立て、談話標識がそれに関わると考えた。その後、会話分析の発展の流れで、Schiffrin(1987)が談話標識の研究を一躍表舞台へと導いた。Schiffrin(1987:31)は「sequentially dependent elements which bracket units of talk(話の単位の境界を示す機能を持ち、談話構造に依存する要素)」とした。この定義の背景的な理論として、次のような首尾一貫性(coherence)に基づく言語観がある。
The analysis of discourse markers is part of the more general analysis of discourse coherence—how speakers and hearers jointly integrate forms,meanings,and actions to make overall sense out of what is said.(談話標識の分析は、より一般的な首尾一貫性の分析の一部である、すなわち、話し手と聞き手が協力して言語形式、意味、行為を統合し、発話された内容から全体的な意味を形成する方法についての分析の一部分である。)
(Schiffrin 1987:49,廣瀬訳2012:6)
一方、松尾(2012)は「結束性」[2]と「首尾一貫性」[3]という2つの概念が談話のテクスト性を支える重要なつながりである。また、この2つの概念について、松尾(2012:2)は「首尾一貫性が保たれていれば結束性がなくても談話は成立するが、その逆は不可能で、首尾一貫性のほうが優位である」と指摘している。そして、松尾(2012:2)は「談話標識は発話と発話や文と文の接続関係を表して談話の結束性の維持に貢献するが、首尾一貫性、つまり意思伝達の成功を担保する要素としても貢献する」と述べた。さらに、談話に首尾一貫性を与え、談話構成に貢献する手段で談話標識が関わるものとして、松尾(2012:6-7)は①話者交替(turn-taking)·②隣接ペア(adjacency pairs)·③会話の終結(closing)·④あいづち(back channel)·⑤フィラー(filler)·⑥言い淀み(hesitation)·⑦テーマ展開(thematic progression)という7つの項目を示した。
本研究は、依頼談話の談話構成に関わる言語要素を考察するため、依頼談話の「首尾一貫性」の実現に貢献する発話または発話における表現要素に注目する。具体的に言うと、ザトラウスキー(1993,1997)による〈談話表示〉および松尾(2012)に挙げられた7項目から、「接続表現」「メタ言語的発話」「フィラー」という3つの言語要素を取り上げて分析する。
2)「接続表現」·「メタ言語的発話」·「フィラー」
(1)接続表現
「文章論」を提唱した時枝(1950:291)は「文章展開の重要な標識」として、「接続詞が、文章の展開に重要な役割を持つもの」であると指摘した。その後、時枝の文章論が発展され、永野(1972)による「接続語」、市川(1978)による「接続語句」が提案された。そのうち、市川(1978:58)は、「接続語句」「接続詞」「接続語」という3つの概念を以下のように区別した。
「接続語句」は、「接続のことば」と呼んでもよいもので、関係する範囲が広い。接続詞·接続助詞およびこれらと同じような機能を持つ語句の総称である(単語·連語を含む)。「接続語句」と紛らわしいものに、「接続詞」と「接続語」がある。「接続詞」は、単語についての呼び名(品詞)の一つである。「接続語」は、主語·述語·修飾語などと並ぶ、文の成分(文節単位)の一つとしての呼び名である。
(市川1978:58)
市川(1978)の接続語句よりさらに広い概念として、佐久間(1990)は、「文段」の認定基準の一つとしての「接続表現」を提案し、その機能について、市川(1978)に基づいて分類を行った。さらに、佐久間(1992)では、談話資料を含む接続表現の文脈展開機能を全3類12種に分類し、佐久間·鈴木(1993)で、文の連接関係と対応させて、日常談話における接続詞の文脈展開機能を検討した結果、その分類原理の妥当性が検証された。
最後に、佐久間(2002:162)は「接続表現」について、文章·談話論における接続機能を有する語句の総称であり、品詞論の接続詞、接続助詞や構文論の接続語、接続句に対する概念である」と解釈し、実際の談話資料などを分析した上で、接続表現の文脈展開機能の具体像を以下の表2-3のように示した。
以上のように、接続表現は、相手に伝えようとする話を始めて、続け、終えるという文章·談話の展開に機能している。これは、ザトラウスキー(1993)の〈談話表示〉という発話機能が談話の展開·構成を分析する際に有効であることを裏付けている。そのため、本研究において、依頼談話の構造を分析する際、「接続表現」の使用を重視し、〈談話表示〉という機能を引用する。
表2-3 接続表現の文脈展開機能
(佐久間2002:168 注:佐久間(1992:16)「接続表現の文脈展開機能」参照)
(2)メタ言語的発話
次に、「メタ言語的発話」の定義を見てみよう。
「メタ言語的発話」は杉戸(1983)の「言語行動の注釈」、杉戸·塚田(1991)の「言語行動を説明する言語表現」と類似する発話である。これは、「言語場面で話し手(書き手)自身がこれからどんな種類の言語をしようとしているか(あるいは、たったいま、どんな種類の言語行動をしたか)を具体的な言語表現の形で明示的に言ったり書いたりする」(杉戸·塚田1991:133)メタ言語的な機能をもつ発話である。
(ザトラウスキー1993:67)
上の記述から分かるように、「メタ言語的発話」は話し手の言語行動を注釈する発話で、話題を展開したり、変えたり、話を終了したりすることを直接に示す発話である。
(3)フィラー
会話は文字言語に比べて、構造が組織だてられる度合いが低い傾向がある一方で、会話で用いられる表現には、ほかのスタイルとの比較において、顕著な特徴がある。そのうち、話し言葉の特徴表現の一つとして、「フィラー」がしばしば取り上げられる。
「フィラー」という音声現象に注目し、日常会話における「フィラー」の機能を分析する先行研究として、山根(2002)と中島(2011)がある。
まず、以下の(4)を通して、「フィラー」の具体像を見よう。
(4)(中島悦子2011:178)
それと、あの[4]、まあ、ちょっと、えー、どちらかと言うと、どちらかと言うととゆうよりも、非常にビジュアルを重視したいので、このへんが、あのー、これ、ちょっと実はすごーく色の出がよくなくてですね。
(4)の□で囲まれたような不整表現が日本語の自然会話に多く見られる。これら「あのー」「えー」などは、これまで統一した呼び方がなく、さまざまな名称[5]で呼ばれてきたが、本研究では、野村(1996)、山根(2002)、中島(2011)に従い、「フィラー」と呼ぶことにする。また、その定義として、より厳密に定められた山根(2002)の定義に従う。
それ自身命題内容を持たず、かつ他の発話と狭義の応答関係·接続関係·修飾関係にない、発話の一部分を埋める音声現象。
(山根2002:49)
次に、談話におけるフィラーの機能について、山根(2002)は談話の全体構造という視点から、「講演の談話」、「留守番電話の談話」、「対話」、「電話の談話」という4種類の談話におけるフィラーを分析し、談話の種類がフィラーに影響を及ぼす要素になり得ると結論づけた。それに対して、中島(2011)は発話における出現位置に着目してフィラーの機能を考察し、出現位置によってフィラーの機能に特徴があると指摘した。両者の分析視点は異なるが、談話におけるフィラーの機能についての指摘はほぼ一致している。特に、談話の構成に貢献している一面として、山根(2002:220)は「テクスト構成に関わる機能」[6]、中島(2011:213)は「談話進行を管理する機能」をそれぞれ挙げている。山根(2002:234)によれば、「この機能は、書き言葉でくぎり符号が担う機能と同等である」という。また、この種の機能を担っているフィラーは発話の冒頭に用いられている[7]という。
以上、「接続表現」、「メタ言語的発話」、「フィラー」について、それぞれの先行研究を外観することによって、この3つの言語要素が談話の構成に関わるという示唆を得た。
本研究では、「談話標識」という立場に立ち、依頼談話の構成、いわゆる「話段」の特徴づけとして、「メタ言語的な発話」、「接続表現」、「フィラー」という3種の言語要素がどのように機能しているかを考察する。
以上、2.4.1節から2.4.3節まで「発話」と「発話機能」の定義およびその分類に関する先行研究を紹介してきた。先行研究に見られる問題点と不十分な点は以下の3点にまとめられる。
第一に、「発話機能」の定義について、ザトラウスキー(1997)の定義はあまりにも大雑把であり、山岡(2008)の定義は不十分である。すなわち、「接続表現」や「フィラー」など発話に含まれる表現から、発話の談話展開に関わる機能の一面も現れた。そのため、「発話機能」の定義を改めて検討する必要がある。
第二に、ザトラウスキー(1993,1997)は実際の談話分析を通して、発話機能を分類し、またカテゴリー化したが、その分類にアンバランスなところが見られる。そこで、本研究においては、ザトラウスキー(1993,1997)を参照しながら、実際の依頼談話の発話を検討した上で、本研究における発話機能の分類を行なう。
第三に、談話の構成に関わる言語的要素において、ザトラウスキーによって指摘された「接続表現」「メタ言語的な発話」のほかに、「フィラー」のような話し言葉における特有の表現も重視すべきである。
注释
[1] 熊谷(1997)では、発話機能を一つの観点からみるのではなく、発話を多角的に、「特徴の束」としてみることが必要としている。具体的には「発話内容·発話姿勢」「話し手と相手、および両者の関係」「会話の流れの構成」という3つのカテゴリーの下にさらに12の観点から求められた特徴の束を設定した。
[2] 結束性は文法的·語彙的手段という言語形式によって作られるテキスト内の意味的まとまりである。
[3] 首尾一貫性は言語的内容から得られる知識と話し手と聞き手の知識や文脈が結びついて生まれるもので、話し手は談話において意思伝達が達成されることを目指す。
[4] □は筆者が加筆したものである。
[5] 伝統的な国語学では、「感動副詞」(山田1936)、「感動詞」(佐久間1943、橋本1948)、間投詞(佐久間1943)等と呼ばれ、品詞の一つに位置付けられている。その後、話しことばを対象とする一連 の研究の中では、「遊び言葉」(伊佐早1953)、「場つなぎ言葉」(遠藤1953)、「言いよどみ」(小出1983)、「フィラー」(定延1993、野村1996、山根1997b、2002)などの名称がつけられている。
[6] 山根(2002:220)では「テクスト構成に関わる機能」を、接続詞のような結束性を強く関与する働きという意味で用いているのではなく、「テクスト構成を手助けする」ぐらいのゆるやかな意味合いを持った用語として使用している。
[7] フィラーの使用は発話の冒頭より、発話中により多く見られるが、山根(2002:233)に指摘された通り、この種のフィラーは「個人の話し癖に左右されやすく」、主に「話し手の情報処理能力を表出」するものである。
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