「話段」という単位について、ザトラウスキー(1993)を参考にして、次のように定義する。
「話段」:内容上のまとまりを持ち、談話の参与者の目的および発話機能により、他と相対的に区分される部分である。
「話段」の認定は、一まとまりの内容を持つ談話の話題を談話参与者のやりとりによっていくつかの具体的な話題に分割する過程である。
一つ一つの談話には目的があり、参加者達はそれぞれの意図の下に各自の目的を目指して話を進めていくと考えられる。依頼談話の場合、依頼者は被依頼者に依頼用件を頼むのが目的であり、被依頼者は、「承諾」·「保留」·「断り」などの依頼に対する応答をすることが目的になる。本研究で設定された依頼用件の場合、依頼者は被依頼者に「友人Aの研究に協力するため、自分と一緒に録音する」ことを依頼し、被依頼者の「承諾」をもらったら、依頼用件の実行時間と場所を決めることを目的とし、被依頼者は「依頼者と一緒に録音する」ことに応答し、「承諾」の場合、依頼用件の実行時間と場所を決めることに協力するのを目的としている。
本研究では、依頼談話の基本となる【依頼】の話段と【依頼応答】の話段のほかに、【交渉】の話段、【収束】の話段、【依頼放棄】の話段、【追加】の話段というような発話集合体も見られた。以下、本研究における各話段の定義を述べる。
4.2.1.1 【依頼】の話段
依頼談話の核心部分である【依頼】の話段は、依頼者が被依頼者に依頼の行為要求を行う部分である。【依頼】話段において、依頼者は、被依頼者に行為要求を行うことを目的とする。依頼を成立させるため、被依頼者に依頼の予告をしたり、依頼内容を伝えたり、依頼に至るまでの経緯を説明したりする。一方、被依頼者は、この話段において、依頼者の行為要求の意図を察して、依頼者の行為要求に対して、【依頼応答】で反応を示す前に、応答をするうえで必要な情報を獲得することを目的とする。
【依頼】の話段は普通会話の開始部の後、依頼談話の最初に現れるが、本研究では、被依頼者の自然参与によって、一つの依頼談話に【依頼】話段が繰り返して現れるケースが日中両言語においてともに見られた。
4.2.1.2 【依頼応答】の話段
被依頼者が依頼者の行為要求に対して、反応を示し、依頼に対する応答を表明する部分が【依頼応答】の話段である。この話段において、被依頼者は依頼に対する応答を表明することを目的とする。
この話段において、依頼者は被依頼者の応答または被依頼者の反応によって、被依頼者の依頼に対する態度を了解することを目的としている。そこで、【依頼応答】話段における被依頼者の応答によって、依頼者はその後の行動展開を調整する。すなわち、【依頼応答】の話段は、他の話段の出現に強く影響を与える話段である。また、「依頼」の定義で述べたように、「依頼」という目的の実現の決定権が被依頼者のほうにあるため、原則的に被依頼者が随時に応答をしたり、またその応答を変更したりする権利を持っている。そのため、自然談話の場合、【依頼応答】という話段の出現に予測不可能の一面も存在する。本研究の談話データにおいて、一つの依頼談話に【依頼応答】が1回だけではなく、繰り返して現れる例も見られた。その出現位置としては、基本的に【依頼】の後であるが、例外も見られた。
4.2.1.3 【依頼放棄】の話段
【依頼放棄】の話段は、依頼者が自ら依頼することを放棄して、被依頼者に断るチャンスを提供する発話の集合体である。この話段は主に依頼者が依頼の意図を表明した後、被依頼者が何も反応せず、談話に沈黙の間が現れた後に出現する。この話段において、依頼者はこの沈黙を被依頼者の承諾に消極的な態度を示すものと読み取り、被依頼者に断るチャンスを提供するため、または談話を前に進めるため、自ら依頼を放棄する意図を表明する。
4.2.1.4 【交渉】の話段
本研究で設定した依頼内容によって【交渉】という話段が現れる。すなわち、被依頼者の依頼者の行為要求に対する「承諾」をもらった後、依頼内容を実行するための時間や場所を決めるため、依頼者と被依頼者がやりとりを行う話段である。なお、【依頼】の話段·【依頼応答】の話段において、依頼内容を実行する時間や場所についてすでに言及し、決定した場合、【交渉】の話段が見られなくなる談話もある。
4.2.1.5 【収束】の話段
依頼談話の参与者は、これ以上依頼談話を続ける必要がなくなったという共通認識をもち、依頼談話を終了させる。本研究では、このような目的に基づくやりとりからなる話段を【収束】と呼ぶ。【収束】の話段において、依頼の話題について収束しようと思った者が先に収束を働きかけるので、依頼者からも、被依頼者からも、【収束】の話段を開始することが可能である。なお、本研究において、会話の録音を依頼者側の調査協力者に任せたため、談話の場の設定や録音の終了タイミングによって、【収束】がすべての談話に見られるわけではない。その一方で、【収束】が2回以上現れる談話も見られた。
4.2.1.6 【追加】の話段
この話段を【追加】と名付けたのは、話段の出現位置および話者の目的によるものである。詳しく述べると、まず、出現位置としては、【追加】という話段がほとんど談話の締めくくりと見られる【収束】の後にある。また、この話段が現れたのは依頼者の意図または被依頼者の意図によるものである。被依頼者がこの話段を開始する場合、被依頼者は「依頼」に対する態度は「承諾」で変わらないが、単に依頼事情や依頼の内容に対して気になっている事柄をさらに話し合う目的を持っている。依頼者がこの話段を開始する場合、依頼者は依頼用件に関する情報や依頼の理由などを補充する目的を持っている。
以上、本研究の分析対象となる依頼談話について、【依頼】【依頼応答】【交渉】【収束】【依頼放棄】【追加】という6つの話段を認定し、話者の目的および話題という2つの視点からそれぞれの「話段」の定義を述べた。また、本研究で設定された依頼用件の目的から考えると、「依頼」が成功した場合、【依頼】【依頼応答】【交渉】【収束】という4つの話段が話者の目的に関連した存在であるのに対して、【依頼放棄】と【追加】という2つの話段は談話の展開によって現れ、談話の流れと緊密に関連している存在である。
「話段」の「動的な過程」という本質を重視し、「話段」の構成を分析するため、本研究では、「話段」の下単位として「小話段」という単位を設けた。この単位によって、依頼談話の基本構成となる【依頼】【依頼応答】という2話段における依頼者と被依頼者のやりとりを考察する。
「小話段」という概念は能田(1994,1996)の提案によるものであるが、「談話」の捉え方が異なるため、本研究における「小話段」は能田(1994,1996)の「小話段」よりミクロな単位である。そこで、本研究では、「小話段」という単位の定義と認定基準を改めて定め、この単位を設ける意義を提示する。まず、「小話段」を次のように定義する。
「小話段」:話段の内部において、談話参与者の発話機能により、他と相対的に区分される部分である。
この定義から明らかなように、「話段」における「小話段」の認定は主に談話参与者の発話機能によって行われる。発話機能の類型によって、依頼者による「依頼」の目的および被依頼者による「依頼に応答する」目的を実現するため、【依頼】および【依頼応答】話段において、それぞれどのような細かい働きかけを行っているかを考察する。すなわち、「小話段」の認定より、依頼者による「依頼」と被依頼者による「依頼に応答する」という各自の目的を実現するための方法/ストラテジーを見出すことを目指している。
本研究では、日中両言語の【依頼】、【依頼応答】という2話段を小話段に分割する作業を行い、両話段において、それぞれ依頼者と被依頼者のストラテジーとして、以下のような小話段が認定できた。
4.2.2.1 【依頼】における小話段
【依頼】話段において、A〔依頼予告〕B〔依頼事情の説明〕C〔依頼理由の説明〕D〔依頼実行の都合確認〕E〔依頼応答の要求〕という5種の小話段を認定した。
A〔依頼予告〕
この小話段は【依頼】のはじめに出現し、依頼者は主に〈話題表示〉という発話機能によって、被依頼者に「依頼」の意図を予告する。また、この予告の発話に「依頼」の意図を明言しているかどうかによって、〔依頼予告〕を直接的な予告と間接的な予告の2種類に分けることができる。
B〔依頼事情の説明〕
本研究で設定された依頼用件が「ペンを借りる」のような簡単な内容ではなく、ある程度の情報量を有する内容であるため、依頼者は主に〈情報提供〉という発話機能によって、被依頼者に依頼用件の内容を説明する。
C〔依頼理由の説明〕
依頼者は「依頼」の正当性を強化するため、〈情報提供〉〈意見表示〉〈関係作り〉などの発話機能によって、被依頼者が依頼の対象として選ばれた理由を説明する。
D〔依頼実行の都合確認〕
本研究で設定された依頼用件では、「来週に録音する」という時間的な制限があるため、依頼者は〈情報要求〉などの発話機能によって、被依頼者が都合の面で、「依頼」に応じる可能性があるかどうかを確かめる。
E〔依頼応答の要求〕
この小話段は名称通りに、依頼者は「依頼」の意図を具体化し、被依頼者の反応を求める。ここで現れる発話機能として、〈情報要求〉〈行為要求〉〈意見要求〉〈意志表示〉という4種がある。
4.2.2.2 【依頼応答】における小話段
【依頼応答】において、A〔依頼事情の確認〕B〔依頼理由の確認〕C〔依頼実行の能力確認〕D〔自己事情の陳述〕E〔態度の表明〕という5種の小話段を認定した。
A〔依頼事情の確認〕
被依頼者は依頼用件の内容についてさらに理解したい場合、〈情報要求〉を中心に、依頼者に依頼用件に関する情報を求める。
B〔依頼理由の確認〕
被依頼者は〈意見要求〉や〈情報要求〉などによって、依頼者に自分を依頼の対象として選択した理由を求める。
C〔依頼実行能力の確認〕
本研究で設定された依頼用件は「会話を録音する」ことであるため、被依頼者は自身の条件(例えば、方言を喋る、発音になまりがあるなど)が、この依頼用件の実行に適当であるかどうかの回答を〈意見要求〉や〈情報要求〉などによって求め、依頼の対象を検討させるチャンスを与える。
D〔自己事情の陳述〕
被依頼者は主に〈情報提供〉によって、自分の都合や事情を述べ、依頼者に自分が依頼用件の実行に不都合であるという現状を伝える。
E〔態度の表明〕
この小話段において、被依頼者は〈意志表示〉〈意見表示〉〈情報提供〉によって、依頼に対する態度を表明する。また、被依頼者の依頼に対する態度には、a「依頼の承諾に肯定的」、b「依頼の承諾に中立的」、c「依頼の承諾に否定的」という3種類のものが見られる。
以上のように、【依頼】と【依頼応答】に含まれる依頼者と被依頼者のやりとりについて、それぞれ5種の小話段を認定した。なお、言語によって、また話段の出現位置によって、これらの小話段がすべて見られるわけではない。さらに、1つの話段に複数の小話段が見られる場合、その出現順序にもバリエーションが見られる。本研究では、小話段を用いて日中両言語における【依頼】と【依頼応答】を分析する際に、上述した小話段の特徴に注目し、以下の3つの視点から分析を行う。
①日中両言語において、【依頼】と【依頼応答】に見られる小話段の具体像をそれぞれ究明する。
②【依頼①】(【依頼】の話段の最初のもの)に見られる小話段の種類および構成タイプを分析することによって、日中両言語の依頼行動の特徴を明らかにする。
③【依頼応答①】(【依頼応答】話段の最初のもの)に見られる小話段の種類および構成タイプを分析することによって、【依頼応答】と依頼談話の構造との関連性を究明する。
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